2006年10月31日火曜日

100題100句

100題100句、あらためて題つきで。題詠というのは創作というよりは受注生産に近い世界ですね。これはこれで楽しいものです。

001:風     半身の線をあらはに涅槃西風           ゆかり
002:指     花烏賊の間違つてゐる指づかひ
003:手紙    永き日の物理的には手紙かな
004:キッチン  大脳のここがキッチン鳥雲に
005:並     歳時記や平年並みの鳥曇
006:自転車   自転車のきはどき裾の丈や春
007:揺     びつしりと揺るるものなき五月闇
008:親     近親のあぶなきものを土用干
009:椅子    偉さうな椅子向合ひて梅雨の入
010:桜     葉桜といふをはばかる黒き幹
011:からっぽ  からつぽのものみな丸き黴雨かな
012:噛     梅雨寒や歯のなき口で乳首噛む
013:クリーム  まどかなるクリームソーダ隙間なし
014:刻     〆切のやうな黒南風刻々と
015:秘密    夫には秘密の結社釣忍
016:せせらぎ  梅雨の日のせせらぎの音滝の音
017:医     火にかけて医食同源秋に入る
018:スカート  脱げばもうスカートでなき秋彼岸
019:雨     傘持たぬ雨女ゆゑ鰯雲
020:信号    信号の赤澄んでゐる夜長かな
021:美     美しき肌一枚の秋めけり
022:レントゲン 長月や前掛け重きレントゲン
023:結     濾胞性結膜炎や小鳥来る
024:牛乳    牛乳に白きいのちや雁渡し
025:とんぼ   ぎらぎらと首都にとんぼのおほきかな
026:垂     胃下垂の位置あらためる新酒かな
027:嘘     残暑なほ嘘と知りつつ百日紅
028:おたく   歳時記を集めるおたく木の実降る
029:草     太陽の真つ赤に燃えて草雲雀
030:政治    政治部の窓に朝顔すましをり
031:寂     静寂や引力により柿落ちる
032:上海    上海に天竺飯店秋の暮
033:鍵     合鍵を持つまでもなき鰯雲
034:シャンプー シャンプーを言ひ当てられる良夜かな
035:株     株主のたなびいてゐる秋の空
036:組     細胞に悪の組織や夜半の秋
037:花びら   とれるまで花びらでなき寒椿
038:灯     夜の霧を探照灯の直進す
039:乙女    コンベアに俯く乙女紫苑かな
040:道     行く秋の道なき道を恋の道
041:こだま   こだまSuicaひかりを待つてゐたるかな
042:豆     蚕豆のやうな顔から光線銃
043:曲線    ゴンベルツ曲線となる囮かな
044:飛     渋柿の飛沫をあげてをりにけり
045:コピー   受験票に写真のコピー不可とあり
046:凍     宇宙では冷凍人間を食べる
047:辞書    辞書になき意味の朝立ち芋の露
048:アイドル  彼に訊くアイドルのこと鰯雲
049:戦争    戦争のきつかけを待つ菊日和
050:萌     いつせいに少年萌ゆる都かな
051:しずく   のぼり来る線香花火のしづくかな
052:舞     秋の夜の伸び縮みする舞曲かな
053:ブログ   夜の虫のやうにブログの響きをり
054:虫     虫五匹ほどの革命起こりけり
055:頬     頬杖の肘を払はれ向日葵落つ
056:とおせんぼ ももんがのとほせんぼするかたちかな
057:鏡     鏡像の話しかけたる神の留守
058:抵抗    馬肥ゆる可変抵抗詩人かな
059:くちびる  三日月のやうなくちびる釣り五円
060:韓     秋深しフローチャートに韓国語
061:注射    注射器を持たぬ手で持つ秋の腕
062:竹     抱籠の結婚すれば竹夫人
063:オペラ   天高しオペラと違ふミュージカル
064:百合    族をなし噎せ返りをる夜の百合
065:鳴      鳴くまでの黒き日和や鳩時計
066:ふたり   十月のふたりで雨戸閉めにけり
067:事務    事務員の手練手管や秋黴雨
068:報     情報の漏洩したる崩れ梁
069:カフェ   小鳥来るカフェのメニューのイタリア語
070:章     章・賞と左右対称天高し
071:老人    俳人に老人多し秋の空
072:箱     箱に入ることもなくなる夏木立
073:トランプ  切れぬならトランプをすな秋の雨
074:水晶    恋人の水晶体で占へり
075:打     打楽器の売場にカスタネットかな
076:あくび   歳時記にあくびのなくて明急ぐ
077:針     針の穴通るボールや秋の暮
078:予想    予想外妊娠と告げられし秋
079:芽     ものの芽のバレーボールを呼び寄せり
080:響     子規ならば交響曲をいくつ書く
081:硝子    硝子吹き線香花火やや思ふ
082:整     整とんのとんが分からぬ大掃除
083:拝     拝島に行つたことなき秋麗
084:世紀    行く秋の世紀末ゆゑ化粧濃き
085:富     黄落やまた騙される富司純子
086:メイド   舌を巻くリヴィングラヴィングメイドかな
087:朗読    朗読の真空管の灯りけり
088:銀     銀行の達者な和訳鶏頭花
089:無理    螻蛄鳴くや無理数といふ無理な数
090:匂     秋や酒匂川が読めぬてふ句を読みにけり
091:砂糖    小春日や花のかたちの角砂糖
092:滑     色鳥や滑車と梃子のない暮らし
093:落     性欲のなき落書きや銀杏散る
094:流行    流行の一夜で変はりななかまど
095:誤     誤字脱字添付ファイルもなくて春
096:器     器にも穴のあるなし秋黴雨
097:告白    告白の後の廊下の夏に入る
098:テレビ   乱れ飛ぶテレビの電波赤とんぼ
099:刺     刺青を刺身にしたる秋の暮
100:題     天気さん100題100句ありがとう