2009年11月29日日曜日

九吟歌仙・電波の巻開始

   透明に電波の満つる小春かな    ぐみ
    あをき氷河を映す平面     ゆかり
   夕闇の匂ひの猫を抱き上げて    苑を

掲示板で巻き始めました。お楽しみに。

2009年11月25日水曜日

六吟歌仙・紅葉の巻

   書き殴るやうに地球に紅葉かな   ざんくろー
    句点を打てる秋のみづうみ      ゆかり
   月を待つひまに一節終はりゐて      銀河
    汽笛の尾には北風混じり        ぐみ
   白煙を残す駅舎の寒椿         藤実ん
    モボモガふうのエキストラたち     れい
ウ  春眠の全休符から始まりぬ         ー
    また一尾減る蝌蚪の共食ひ        り
   つばくらめ頬をかすめて軒下に       河
    庇の蔭の初めてのキス          み
   跪くきみの耳たぶ冷たくて         ん
    美童のあそび照らす燭の火        い
   炎天に沈んだやうに浮かぶ月        ー
    貼り出されたる営業成績         り
   郵便的不安切手の足りぬらし        河
    三くだり半は猫の舌借り         み
   牛乳を冷ましをる間に花一片        ん
    海市のことを消す電子音         い
ナオ 鳥の木と呼びたきほどの百千鳥       り
    予感のありぬ鉄砲百合に         ー
   豆喰らふ顔して辻に宇宙人         み
    かごめかごめの環に閉じこめる      河
   それからは波羅那国には雨降らず      い
    からから空き缶つけし自動車       ん
   新婚といふその響き嗚呼しんこん      り
    やまびこに遭ふ我が旧校舎        ー
   整列の少し乱れて曼珠沙華         み
    色なき風のありやなしやと        河
   逃亡の背後に鎌の月かかる         い
    御息所は頬杖をつき           ん
ナウ 糠床のしづかに増える虚子の種       り
    教会を突くパイプオルガン        ー
   先ゆきしものらの戦ぐ木ぬれなり      い
    就職きまる街に淡雪           河
   蒼穹へ一途に咲ける嶺桜          み
    水平線に春の膨らむ           ん

起首 2009/10/13 22:22
満尾 2009/11/22 00:55
捌き ゆかり

 掲示板で巻いていた連句が満尾しました。
もう一巻行きます。どなたか発句をどうぞ。

2009年11月21日土曜日

俳風動物記

 とある絶版フェアで宮地伝三郎『俳風動物記』(岩波新書)なる本を購入しました。1984年に出た黄色時代の岩波新書で、著者は動物生態学専攻の学者。目次はこんな感じです。
 
Ⅰ 香魚のすむ国
 香魚のすむ国
Ⅱ 水辺の優位者たち
 カワウソと獺祭
 水郷のおしゃべり鳥・行々子
 カイツブリの生活と行動型
Ⅲ 俳諧師との湖沼紀行
 アメノウオと湖沼類型
 イサザの幼態進化
 タニシを鳴かせた俳諧師
 三種のシジミと環境語
Ⅳ 不殺生戒の時代
 蚊を焼く
 放生会
 川狩りの記憶
 
 取り沙汰される句はほとんど江戸期のものですが、著者自身の句(俳号・非泥)も少なからず掲載されています。

 例えば「蚊を焼く」の章。昔の人は蚊帳に入ってしまった蚊を紙燭で焼き殺していたのですね。はじめて知りました。

蚊を焼いてさえ殺生は面白き            川柳
紙燭してな焼きそ蚊にも妻はあらん         二柳
閨の蚊のぶんとばかりに焼かれけり         一茶
蚊を焼くや褒姒(ほうじ)が閨の私語(さざめごと) 其角
蚊を焼くや紙燭にうつる妹が顔           一茶
ぶんという声も焦げたり蚊屋の内          白芽
蚊を殺す罪はおもはず盆の月            写也
後の世や蚊をやくときにおもはるる         成美
独寝や夜わたる男蚊の声侘し            智月

などの句を俎上にのせ、動物生態学や死生観の見地からうんちくを傾けています。今日でこそ血を吸う蚊はメスであることが知られていますが、二柳や智月の句をみると江戸期にはオスの蚊が血を吸うと思われていたのですね。

 ところで其角の句、褒姒を検索すると面白いです。

 だが、褒姒はどんなことがあっても笑顔を見せることはなかった。幽王は彼女の笑顔を見たさに様々な手段を用い、当初、高級な絹を裂く音を聞いた褒姒がフッと微か笑ったのを見て、幽王は全国から大量の絹を集めてそれを引き裂いた。

という記述があって、そうすると俄然気になるのが其角の有名な句。

越後屋にきぬさく音や衣更 其角

この句について小西甚一は『俳句の世界』(講談社学術文庫)で「(越後屋は)それまでは一反単位でしか売らなかった旧式の経営法を改革し、ほんの一尺二尺でも快よく分け売りをした。(中略)「絹裂く」はその分け売りをさす」と書いていて、もちろんそうなんだろうけど、其角なら「さんざん儲けて女かこって幽王みてえなことしてんじゃねえか」くらいの皮肉を込めたのではなかろうか、と、ふと思うのでした。

2009年11月3日火曜日

広渡敬雄『ライカ』

 広渡敬雄は「沖」同人、「青垣」創刊に参加とある。『ライカ』(2009年7月発行。ふらんす堂)は第二句集。

空よりも海原広き冬至かな      広渡敬雄
燕低し海にかぶさる醤油蔵
パイプライン二寸地に浮き犬ふぐり
弓なりに迫る万緑地引網


 句集のタイトルがなにしろ『ライカ』なのである。実に思い切ったアングルで景を切り取っている。

紙漉きの一灯水をたひらにす
山眠る等高線を緩めつつ
梟に腕あらば腕組むならむ
ゆく夏の錨のごとき寝覚かな
山椒魚月光にある湿りかな
幹よりも冷たき桜散りにけり


 いかがだろう、これらの句の俳句的把握の冴えは。山がコルセットをはずすみたいに等高線を緩めているという尋常ならざる奇想。

 以下、好きな句多々。

猟犬に獲物のごとく見られけり
しんしんと天領の葛晒しけり
葛晒す男に匂ひなかりけり
木枯し一号てふ機関車に乗りたけれ
空かたき十一月のポプラかな
青き薔薇活けし瓶あり銀河系
拡声器より運動会の佳境なり
灯のついて大きくなりし春の雪
父の日やライカに触れし冷たさも
陸封のむかしむかしの岩魚かな
山の子の飛込みの泡とめどなし
夏果の卓に海洋深層水
跳ねるたび弱りゆく鮎月の梁
つちくれとなりしからまつ落葉かな
梟の背に星座の巡りゐる
繋がれて冬のボートとなりにけり
大年の屋上に人男子寮
どんぐりのたまる窪みや冬旱
艇庫より新入生の女の子
寒流になじむ暖流石蕗の花
遠山にサーチライトの伸びて冬
豆球のまま消さずおく雛の間
朧夜のポスターに犬探偵社
陸封の水硬からむ晩夏光
部屋ごとに匂ひありけり盆の家
霧走る疾さを頬のとらへけり
ナース帽ふたつ桜餅みつつ
花こぶし校歌二番の口に出て
餡パンに塩味少し鳥の恋