2010年7月19日月曜日

六吟歌仙・托卵の巻 満尾

掲示板で巻いていた歌仙が満尾しました。

   托卵の殻わる音やほととぎす      銀河
    母なるものの動く夏暁       ゆかり
   私がダム湖の底に沈みゐて    ざんくろー
    遠くにお墓参りの人々       ぽぽな
   月に触れ風の数知る摩天楼       ぐみ
    コーヒーカップにとまる秋蝶     苑を
ウ  団扇置く手の傾きを撮られをり      河
    水のかたちのオブジェの気持ち     り
   さみだるる三階婦人服売場        ー
    美しすぎていまだ独身         な
   空を飛ぶ夢ひたすらに雄孔雀       み
    微熱のやうな雨にふられて       を
   凍月を曳いて北極海の波         河
    写実的なる聖ニコラウス        り
   春昼を偶像のまま置き去りに       ー
    次から次へシャポン玉ゆく       な
   息止めて落花の渦に逆らはず       み
    立ち食ひ蕎麦に七味たつぷり      を
ナオ 快速の大垣行きにひとり乗る       り
    顔立ちしかと焼きつけて来ぬ      河
   もういちどだけ会ひたいと藍浴衣     な
    水羊羹と合鍵持つて          ー
   膝枕して伯剌西爾を応援す        を
    浅草つ子の陽気な産婆         み
   雷を起こし源内捕らはるる        り
    まさに歴史の動くからくり       河
   日めくりをめくり八月十五日       な
    はがきハイクの黍嵐来て        ー
   戯れをせむと嫦娥を招き入れ       を
    魚拓のやうな恋の凸凹         み
ナウ 老いらくの抜き差しならぬ掘炬燵     り
    灰掻き立てる銀の火箸も        河
   回廊のどこかに時の亀裂あり       を
    色混ぜぬやう初虹渡る         み
   花の香をふりまきながら女神たち     な
    春たけなはを統べる世界樹       ー

起首 2010/06/21
満尾 2010/07/19
捌き 三島ゆかり

2010年7月11日日曜日

小林苑を『点る』

 小林苑を『点る』(ふらんす堂)は、著者による第一句集。経歴に記載された生年は目を疑うが、「凧むかし子供に焼野原」という句もあるのでほんとうなのだろう。
 
 白地に銀色で北村宗介氏の書をあしらった素晴らしい表紙を開くと、最初の五句は以下。

   空室の壁に麦藁帽子の黄    苑を
   天道虫飛んでしつかり朝御飯
   横濱茶房白南風の映る匙
   赤茄子をがぶりと休暇始まりぬ
   群青の水着から伸び脚二本

 なんと五句中四句まで「黄」「白」「赤」「群青」と色を詠み込んでいる。装丁からすでに周到に苑をワールドは始まっていて、白を基調とする装丁を開くと、読者は一気にカラフルな世界に身を投じることになる。そのためのイントロダクションとしての白を基調とする装丁なのである。帯の櫂未知子の引いた句が奇しくも「こころ惹かれて色鳥の名を知らず」。実に楽しい。

 そして句の配列がこれまた実に周到で、連句への造詣も深い著者ならではの味わいがある。もちろん句集なので連句のマナーそのもので並んでいる訳ではないのだが、配列へのこだわりがびんびん伝わってくる。例えば、

   群青の水着から伸び脚二本

の次は「二」つながりで

   遠泳の母の二の腕には負ける

そのつぎは「ひとりぽつち」となり

   背泳ぎのひとりぽつちといふ浮力

そのつぎは消滅する。

   奇術師のまんまと消えるソーダ水

実に巧妙な配列である。冒頭の八句だけでこれだけ楽しめるのだから、後は言うに及ばずである。これは大いにはまる。

【追記】
掲示板にて句集『点る』上梓記念興行「お祝ひ歌仙・点るの巻」が進行中です。ぜひご参加下さい。
(もうひとつ「托卵の巻」というのも同時に巻いておりますが、こちらは六吟にて締切となっております。悪しからずご了承下さい。)

2010年7月4日日曜日

加藤かな文『家』

 加藤かな文『家』(ふらんす堂 2009年)は、四十代の著者による第一句集。総じてオーソドックスで生活に根ざした作風だが、時折妙に可笑しくツボにはまってしまう句が混ざる。どこか着眼点とかタイミングとかが絶妙なずれ方をしているのである。例えば「金蠅」の句、「来客」の句、「水甕」の句、「卒業生の椅子」の句、「初蝶」の句。
 
葉脈の太々とある桜餅      加藤かな文
鮎片面食うて明かりを灯しけり
巻きついて昼顔の咲く別の草
鳴く鳥と飛ぶ鳥のゐる昼寝覚
朝顔の壊れてけふも咲きやまず
小春日の坂は集まり一本に
梅雨の窓開けば幹の途中なり
海までの長き熱砂と金蠅と
こぼすもの多くて鳥の巣は光
雲の峯まぶしきところから崩る
来客の後ろに夜と裸木と
帰りには雪の花壇となりにけり
湯のやうに踝に来る仔猫かな
水甕に金魚ゐるはず冬の星
吾よりも濃き影をもつ菫かな
まつすぐに並ぶ卒業生の椅子
音のして見れば月なり春の暮
朝顔の百が力を抜いてをる
案外と野分の空を鳥飛べり
木枯や吾より出づる父の声
裸木の裸に濃きと薄きあり
燃え跡の出てくる雪の畑かな
あらはれてから初蝶のずつとゐる
数へ日や一人で帰る人の群