2010年10月29日金曜日

六吟歌仙・虫の音の巻

掲示板で巻いていた連句が満尾。


六吟歌仙・虫の音の巻

   虫の音の堆積したる地層かな     ざんくろー
    とろみを帯びて白き銀漢        ゆかり
   指先で月を西へと引き寄せて       あとり
    南船北馬風の吹くまま          ぐみ
   春遅々と音の割れたる蓄音器         ー
    笑へる山に投げるかはらけ         ゆ
ウ  三姉妹喋りでしやばりたまや吹き       あ
    上海の夜のシャンパンの泡         み
   纏足の靴に魅入られ路地の奥         七
    いけない君が身繕ひする        のかぜ
   バオバブの木の下でする初キッス       ー
    根を張つてゐる仙腸関節          ゆ
   標本の鰭きよらかに夏の月          あ
    学究肌で趣味は聞香            み
   灰形の景色に蝶の舞ひ降りて         七
    風が撫でるよ草青む野辺          ぜ
   薄紅に微笑み花の帰る頃           ー
    負けてくやしいじやんけんロボット     七
ナオ ゆふぐれをパイナツプルと駆け上がる     ゆ
    カタリナ飛行艇の着水           あ
   セイレンのま白きレース寄せ来たり      ぜ
    祈りに似たる毛糸編むさま         み
   谷に降る雪を眺めて一人酒          七
    雛の使ひは赤めいた鼻           ぜ
   みいちやんが歩き続けて百千鳥        ゆ
    春蝉の弾く変ロ短調            ー
   おしなべて男同士の捕虫網          み
    菊人形に誘はれてゐる           あ
   金銀糸錦の衣映す月             ぜ
    絵皿を揃へ色鳥を待つ           七
ナウ けもの道なすこともなく猫来る        ゆ
    窓ふるはせてお琴の稽古          ー
   汀にて韻を拾へるうたの海          ぜ
    眠い眠いと笊の飯蛸            あ
   東雲の呼気に吸気に花開く          み
    発光体の春野なりけり           七

起首:2010年 9月19日(日)
満尾:2010年10月29日(金)

2010年10月23日土曜日

伊藤白潮句集『ちろりに過ぐる』

 新旧お構いなしに読むので、今となっては入手困難な句集について書くこともあるかも知れませんが、今回読んだのは、故伊藤白潮の第五句集『ちろりに過ぐる』(角川書店 2004年)。
 この句集、おおいにはまりました。一句一句がずどんと来ます。また、曰く言い難い諧謔がたまりません。句集は、四季により青陽の章、朱明の章、白蔵の章、玄帝の章に分かれ、さらにその中が平成八年から平成十二年に分かれるという、ちょっと変わった構成になっています。
 さっそく青陽の章から見て参りましょう。

一川の遡上をゆるす斑雪の野 伊藤白潮

 遡上しているのは作者の視線でしょう。雪の残る野のゆるい景の中、川がきらきらと下流から上流に向かって見渡せる、そんな感じだと思いますが、音の響きが絶妙で、「いっせんのそじょう」という漢語の厳しい響きと「はだれのの」という和語のゆるさの対比が生き、なによりも「ゆるす」の措辞が絶妙です。

接木して晩節全うするごとし
菊根分その他一切妻任せ


 園芸の趣味があったのでしょうか。ものすごく集中する部分とそれ以外のありようが、じつに人間くさくて楽しいです。

桜恋ひ症候群をこじれさす
夜桜をくぐり血小板減らす


 なんなのでしょう、この医学用語の詩的利用。「桜恋ひ症候群」という造語が楽しく、「血小板」の句に至っては、なんだか分からない妖しさがあります。それとも怪我をしただけなのかな。

逃水を割り込ませゐる車間距離
逃水も女も追ふに値ひせり


 このあたり、じつに言い難い諧謔を感じます。

書斎派の夜は居酒屋派春一番
阿乎乃太と品書きされし岬亭


 お酒の句がずいぶんあります。お好きだったのでしょう。じっさいそう品書きにそうあったのでしょうけれど、阿乎乃太は何? あおぬた?

(続く)