2011年10月28日金曜日

六吟歌仙・人影の巻

   人影や空に銀漢河口に火        月犬
    露におもたき石炭袋        ゆかり
   月の宴十二単の居並びて       らくだ
    jour du Japon なる巴里の小春日   ぐみ
   横向きの女神の頬に消印を      あとり
    もう一度だけ会つてください    ぽぽな
ウ  寄せ返す恋と別れの弁証法        犬
    しやうがないのは雨の日のゆゑ     ゆ
   客待ちのタクシー並ぶ駅前に       だ
    横目で過ぎる把瑠都臥牙丸       み
   オーロラは一筆書きの人の型       あ
    地には小さき焰うまれて        な
   燈台といふ望郷があるとせよ       犬
    月は泉にこんこんと湧き        ゆ
   東山魁夷の青が見たくなり        だ
    スタンダールの小説を閉づ       み
   鼈甲の眼鏡の縁に花の雨         あ
    富士見高原病院の春          な
ナオ はだれ野を臓器のために生まれきて    ゆ
    深き森へと鹿の子を放つ        あ
   千代紙の花嫁人形手すさびに       み
    伊勢の土産の赤福届く         犬
   昼すぎはレゲエばかりのラジオ局     な
    美声のための労は惜しまず       だ
   手をつなぎ光合成をしませうか      ゆ
    堰き止めの湖乾け乾けと        あ
   銀の匙くわえ生まれしみどりごよ     み
    文庫本のみ商ふ古書店         犬
   満月は神田明神通過中          な
    大捕物に踏まるるぎんなん       だ
ナウ マドンナにマドモアゼルに秋気満つ    ゆ
    マフに隠せる祈りの指は        あ
   飛ぶように一日の過ぎる旅の空      な
    移民の群れに春の雪降る        犬
   地球儀のぼんやりとして花明り      み
    海うらゝかに風のゆふぐれ       だ

起首:2011年 9月25日(日)
満尾:2011年10月28日(金)
捌き:ゆかり

2011年10月7日金曜日

七吟歌仙 白萩の巻

掲示板で巻いていた歌仙が満尾。

   白萩や書架に旧りたる千字文     あとり
    たつぷり運ぶ秋の太筆       ゆかり
   時差を越え今宵の月に二度会ひて    ぐみ
    街を見下ろす東京タワー       楚良
   菜の花のなかを徐行の中継車      由季
    声の上ずる新入社員        ぽぽな
ウ  空箱に猫の子出たり入つたり    沖らくだ
    鍵を左にひねる指先          あ
   くちびるで塞がれてゐる梅雨の闇     ゆ
    はや明烏ゆめのとけゆき        み
   みづうみにつれだつてくる童子たち    良
    浮御堂にも避難勧告          季
   最新のスマートフォンのレイアウト    な
    毛布被りてゲラ刷りを読む       だ
   立春にうまく剥けない茹卵        あ
    雪残る湯に猿とつかりて        ゆ
   惑星の贅つくしたる大花見        み
    のつぴきならぬ翁らの舞        良
ナオ 立ち位置の目印としてくわりんの実    季
    人文字できる秋の校庭         な
   かまきりが座敷わらしを連れてきて    だ
    炉に落としたる入歯を探す       あ
   操業を停止してラグビー場へ       ゆ
    二色えらび縞馬となり         み
   草原の遠き彼方に住む少女        良
    駆け落ちの朝ほどく三つ編み      季
   白シャツの先生の腕たくましく      な
    やる気の見えぬ夏季補習組       だ
   砂浜に楽譜燃しつつ月を待つ       あ
    空んずるべし此の曼珠沙華       ゆ
ナウ 鉄鉢に秋風満たし僧の列         み
    ぶつきら棒に答へる倅         良
   メンデルの法則による豆の皺       季
    朝の廚に春の陽あふれ         な
   ゆく人のみな見とれたる花吹雪      だ
    国境なく笑ふ山々           あ


起首:2011年 9月13日
満尾:2011年10月 7日
捌き:ゆかり