2016年10月16日日曜日

七吟歌仙 踊り場の巻

掲示板で巻いていた連句が満尾。

   踊り場に声の響きし九月かな   あんこ
    鶫の目もて走る少年      ゆかり
   島めざし月夜の海へ漕ぎ出でて   ぐみ
    ゴーギャンの絵の濃ゆき肌色   媚庵
   薄耳の小さいひとが炉を開く     七
    雪吊りの松あちらこちらに    銀河
ウ  一手打つたびごと増えてゆく酒量  なな
    怒りし顔で告白される       こ
   くすくすと笑んで袋を取り出しぬ   り
    弥生吉日署名待つ紙        み
   月おぼろ蝶ネクタイの朔太郎     庵
    苗代どきの異形細胞        七
   石英が水晶となるすずしさも     河
    ガムくちやくちやと噛む音の中   な
   予告編途中に座る映画館       こ
    字幕書体は星の彼方へ       り
   波こえて三日おくれの花便り     み
    春日傘さす公爵夫人        庵
ナオ ドラム式洗濯機買ふ修司の忌      七
        なんてことないことなのですが      河
   腹痛に頭痛に歯痛筋肉痛       な
    LINEはすぐに既読となりて     こ
   妄想をあつめて灯す大都会      り
    豪栄道に暑さいや増し       み
   怖すぎる話の多き避病院       庵
    この世のような夢を見る昼     七
   笠雲のかかりて富士のしづかなる   河
    澄むみづうみに浸ける指先     な
   月光へバンドネオンの爆ぜてをり   こ
    秋の今宵を悪魔のシャッセ     り
ナウ 懐かしき初雪のごと肩に触れ     み
    眠りをやぶりラッセル車来る    庵
   やはらかな時計の掛かる地下のバル  七
    楤の芽を添え和風ステーキ     河
   ゆふぐれは花の白よりゆつくりと   な
    佐保姫とまた誓ふ再会       こ


起首:2016年 9月 9日(金)
満尾:2016年10月16日(日)
捌き:ゆかり

2016年10月14日金曜日

(11) 俳壇賞をめざす(うそです)

 前号では旧作のロボット群のうち、特定の俳人を模倣したものを紹介した。今回は、残った単機能で実験的なものについて紹介する。

 この原稿を書いている時点で第三十一回俳壇賞の締切は数日後に迫っている訳だが、三十句なりのまとまった数の俳句を揃える場合、人はしばしば連作とかテーマ詠の方向に走る。一句一句ばらばらにできたものよりも、その方が統一性があって訴求力がありそうだと考えるからである。であればロボットでも、句型をあらかじめ五十くらい用意して、傾向の極端に偏った語彙を流し込み、ざっと見て箸にも棒にもかからぬ句を捨てれば、一丁上がりでポンと応募できるのではないか。じつに横着で舐めきった発想であるが、私はそういう人間なのである。前号と同じ「俳句自動生成ロボット型録」のうち、「綱吉」と「諸般」はそのようにして作られた。「綱吉」は犬にまつわる語彙、「諸般」はショパンにまつわる語彙を元にしている。誌面の都合で諸般の句のみ紹介する。

 雨だれに父のにほひのして花野 諸般
 蟷螂を洗ふバラード第一番
 秋の田をゆるす軍隊ポロネーズ
 革命のかたちに月はかへりけり


 さて〈雨だれに父のにほひのして花野〉であれば、ショパンにまつわる語彙は「雨だれ」だけで、同じ名詞でも「父」「にほひ」はショパンには関係ない。「綱吉」も「諸般」も、名詞群に属性を持たせ、句型の中でテーマの名詞群は一回だけ現れるものとし、
名詞が二度以上現れる句型では他を普通の名詞群としている。このように句型を作っておくと、テーマ詠に限らず、個性を注入しやすいのだ。以後に作成したロボットは「はいだんくん」も含め、属性により名詞群を二分している。

 もうひとつ「忌日くん」というロボットを紹介しよう。ご存じのように歳時記には季語として忌日が多く収められている。「忌日くん」はそれらには目もくれず、新作の忌日を刻々生み出す。

 鎖骨忌のひとつの朝の電気かな 忌日くん
 おほぞらの体毛紅きおほぞら忌
 遺伝子の抽斗送りパジャマの忌


 忌日は不思議である。人名に限らず名詞に「忌」とか「の忌」を付けるだけで、あらあら不思議、季語となるのだった。

(『俳壇』2016年11月号(本阿弥書店)初出)