2019年12月20日金曜日

七吟歌仙 笹舟の巻

   笹舟のゆくへや今朝の冬野川    冬泉
    子より大きな息白き犬     ゆかり
   サーカスの始まり告げる声のして ぽぽな
    笑顔を保つ軟体の美女      由季
   月淡くしてコルカタの道をゆく   夜景
    霧を換喩とまちがへながら    秀雄
ウ  冷まじきものに国立競技場     苑を
    聖母子像に火薬匂へり       泉
   はぐれたら外人墓地で落合はん    り
    薄き耳朶やはらかく噛み      な
   パン種を伸ばし捩ぢるもモテ仕草   季
    アンモナイトを夢に置き去り    景
   のむ水の腹の地層を疾くとほる    雄
    逆三角は正義のしるし       を
   麦踏んで定家が仰ぐ明月に      泉
    仮名遣ひよきうぐひすのゐて    り
   姿見の奥の奥まで花盛        な
    テクマクマヤコン楊貴妃になれ   季
ナオ 片恋の涙を獏に舐めさせて      景
    切手溢るる電話ボックス      雄
   空色の硝子の床の下は街       を
    終末旅行はレーション持つて    泉
   目が合へば隠るる二つ結ひ揺るる   り
    プールサイドは午後のきらめき   な
   牧神のひとの部分が凍えゐる     季
    巨大な熊が高く跳ぶイヴ      景
   星間の点線すでにうすけむり     雄
    月宮殿に箏を奏でて        を
   波斯青磁烏扇の実をこぼす      泉
    酒乱の父の舐める柚子味噌     り
ナウ 谷合ひの里しらじらと明け初めて   な
    脈の速さの雪はふりつむ      景
   大鍋にぼるしちの湯気立ち昇り     を
    初点前には銀鼠を着て       泉
   打ち揃ふ堺商人花の宴        季
    帆のはためきの音のうららか    雄


起首:2019年12月 1日(日)
満尾:2019年12月20日(金)
捌き:ゆかり