2016年2月13日土曜日

(3) 動詞て?

 前号まではランダムに変化するのは名詞だけだった。今回はロボットで動詞を扱おうという観点から考える。日本語がネイティブな人なら普通にできることが、ロボットに取り込もうとするとあらためて難しい。

 その一。動詞は活用する。活用の種類として文語文法なら四段とか下一段とかカ行変格とかあって、それぞれが未然形、連用形、終止形、連体形、已然形、命令形に変化する。口語文法ならさらに五段とか仮定形とかになる。「はいだんくん」は語彙を句型に流し込んでいる訳だが、あらかじめ語彙を登録するときに四段とか下一段とかの種類を併せて登録し、句型の側で未然形とか連用形とかを指定し、流し込むその場でロジックにより活用させている。ところで動詞は語幹と活用語尾に分かれる訳だが、二音の動詞の一部では語幹が活用語尾になっている(例えば「見る」の未然形、連用形)。単純に終止形から活用語尾をとって、未然形とかの活用語尾を足せばできあがりという訳ではない。日本語はじつに難しいのだ。

 その二。動詞によってその前に使える助詞は決まっている。「水を飲む」というが「水に飲む」とは言わない。「朱に染まる」というが「朱を染まる」とは言わない。助詞「を」「に」は、動詞によって使えたり使えなかったりする。対策として語彙を登録する際に助詞と動詞を組み合わせ「を飲む」「に染まる」という単位で語彙登録する考え方もある。が、助詞を省略して切り詰めた表現をすることもある俳句でそれをやることは面白くない。かくして語彙を登録するときに動詞の属性として「を」「に」が使えるかを併せて登録することにする。

 その三。動詞の語尾は音便して「ん」や「つ」になり、動詞の次に来る「て」はときどき濁音となる。「見て」「聞いて」「言つて」「楽しんで」…。 このあたり、ネイティブな日本人はなまじ自然にできてしまうので、法則として理解を超えている。ロボットを開発するために、外国人相手の日本語学校に通おうかと思ったりもする今日この頃である。

 ふるさとに辛夷の少女満ちてきし はいだんくん

(『俳壇』2016年3月号(本阿弥書店)初出)

七吟歌仙 ひとすぢのの巻

掲示板で巻いていた連句が満尾。

   ひとすぢの飛行機雲や筆始     ぐみ
    海と接するまろき初空     ゆかり
   酒満たす壺に小さき耳ありて    月犬
    秋の蝶来て何か囁く        七
   月光のあまねき川の流れたる   てふこ
    しめぢを採りに上る山道     苑を
ウ  洋館に近寄らぬやう釘をさし   らくだ
    いとしさ余つて藁の人形      み
   心なきブリキの身となのたまひそ   り
    保護責任者遺棄の疑ひ       犬
   ともだちのゾンビと遊ぶ夢の島    七
    あそこに見える千葉県の影     こ
   ひたすらに夕陽に向かひ知事走る   を
    胴着干されて月の涼しき      だ
   頭のうへをナポリに紐はめぐらされ  み
    電子レンジで加熱四分       り
   通勤の車窓に濠の花あふる      犬
    朧夜を売る恍惚の人        七
ナオ どこかしらきしみ続けて風車     こ
    土産物屋の座布団に猫       を
   高座から野次が下手だと怒られて   だ
    はや夏いろの喜多美術館      み
   我々に恋の幟の翻る         り
    縺れた糸をほぐす交はり      犬
   婦人誌の付録に入れる懸想文     七
    目力も無く女子力も無く      こ
   ウナギ目ウミヘビ科ヒレアナゴ属   を
    海底火山噴火を予知す       だ
   満月にやかんの蓋は踊り出し     み
    夜長を吠える銀の目の犬      り
ナウ 人知れず割れて真つ赤な柘榴かも   犬
    四辻曲がれば黄泉比良坂      七
   ちよび髭の貌の大抵三鬼めく     こ
    老婆寄り合ひ捏ねる草餅      を
   待ちわびし文殊の寺の花便り     だ
    生まれし仔馬塔を仰ぎぬ      み


起首:2016年 1月17日(日)
満尾:2016年 2月13日(土)
捌き:ゆかり