掲示板で巻いていた連句が満尾。
見上げれば真中の暗き花火かな 月犬
うつつのごとく川のせせらぎ ゆかり
蜉蝣の翅痛さうに日を受けて あんこ
芒を飾る空近き街 ぐみ
右の目を濯がば月読尊の生れむ 苑を
コンビニエンスストアの店員 なな
ウ まさに飛ぶやうに売れゆく週刊誌 なむ
マルサの女紅を濃く引く 犬
白昼の口移しする生玉子 り
荒く抱きあふキッチンの床 こ
山火事に迂回勧める天城越え み
ノーベル賞の発表迫る を
コンタクトレンズを左右間違へて な
寒月光の底の玻璃窓 む
教会のオルガン弾きも帰る頃 犬
けもの飛び交ふ春の暗闇 り
ポストへの道ゆるやかに花筏 こ
赤ワイン買ひ木の芽を和へて み
ナオ リビングにピカソの犬は長く伸び を
乳を含めず泣いてをるなり な
憶良らはいまは罷らむ出直さむ む
唐の都に不穏な噂 犬
肉林の七賢泳ぐ酒の池 り
教授の語る山本竜二 こ
少年に戻りて雲の峰目指し み
かぶとむし対かぶとむし戦 を
若冲の作といはれて買ひ求む な
錦小路に藷の並ぶ午後 む
旅の荷を解く肩と背を照らす月 犬
やは肌といふ秋の夜の罪 り
ナウ 高らかに十二時告げる鐘の音 こ
諸行無常と雪にまみれつ み
放課後の黒板消しのぽとり落ち を
春は春とて佐々木に佐藤 な
先陣を争ふやうに飛花激し む
笑ふ山あり酌み交はしをり 犬
起首:2017年 6月27日(火)
満尾:2017年 7月30日(日)
捌き:ゆかり
2017年7月30日日曜日
2017年7月14日金曜日
(20)動詞の語彙を収集する
ロボットのことを考えていないときはネット上で連句を巻いている。八年ほど年間十巻前後を捌いているのだが、ネット連句ならではというべきか連衆もいろいろで、面識のない人もいれば、ここだけのお忍びの俳号で参加されている方もいる。いちばん最近満尾した巻の冒頭は以下。
葉脈のみるみる伸びる立夏かな 伸太
薫風わたる河岸段丘 ゆかり
国境を超える列車に身をおきて 媚庵
ユーロ紙幣で払ふ飲み代 銀河
ここまで巻いたところで捌き人の私が茶目っ気を発揮し、伸びる→わたる→超える→払ふ、と続いたのだからすべての付句に動詞を入れようと突飛な提案をし、実際そのように進行した。中間を割愛して名残裏の花の座と挙句のみさらに記そう。挙句では最後とばかりになんと三個も動詞を投入している。
新聞を綺麗にたたむ花の午後 桃子
来ては睦みて消ゆる双蝶 伸太
かくして三十六句で使われた動詞は以下四十九個。
ア行:上ぐ、あり、おく、追ふ、泳ぐ
カ行:抱へる、帰る、聞く、消ゆ、崩る、来、零す、超ゆ
サ行:さぶらふ、凍む、棲む、する
タ行:確かめるたたむ、呟く、つむる、飛ぶ、とる
ナ行:ながれる、鳴く、なる、にじむ、濡らす、眠る、伸びる、登る
ハ行:走る、果つ、はびこる、払ふ、吹き抜ける、ほかす
マ行:負ける、まるめる、むづかる、睦む
ヤ行:焼け落ちる、揺れる、読む、捩よぢれる
ラ行:弄す、論ず
ワ行:わたる、笑ふ
さて、連句を巻いていないとき私はロボットのことを考えている。これら、連句の運びの中で自然に得られた、まとまった量の動詞は俳句自動生成ロボットに取り込む語彙としてじつに貴重である。そういう観点でみると、文語(上ぐ、あり、…)、口語(おく、追ふ、泳ぐ、…)、方言(ほかす)、カ変(来)、サ変(弄す)、濁るサ変(論ず)、複合動詞(吹き抜ける、焼け落ちる)など、じつに多岐にわたっている。動詞の活用についてはこの連載の三回目で一度触れたが、法則として理解を超えているところがあり、カ変、サ変のあたり、これまでロボットへの取り込みを棚上げしていたところもある。ここは魔法の呪文を自分にかけよう。「しゃあねえ、やるか」と。
(『俳壇』2017年8月号(本阿弥書店)初出)
葉脈のみるみる伸びる立夏かな 伸太
薫風わたる河岸段丘 ゆかり
国境を超える列車に身をおきて 媚庵
ユーロ紙幣で払ふ飲み代 銀河
ここまで巻いたところで捌き人の私が茶目っ気を発揮し、伸びる→わたる→超える→払ふ、と続いたのだからすべての付句に動詞を入れようと突飛な提案をし、実際そのように進行した。中間を割愛して名残裏の花の座と挙句のみさらに記そう。挙句では最後とばかりになんと三個も動詞を投入している。
新聞を綺麗にたたむ花の午後 桃子
来ては睦みて消ゆる双蝶 伸太
かくして三十六句で使われた動詞は以下四十九個。
ア行:上ぐ、あり、おく、追ふ、泳ぐ
カ行:抱へる、帰る、聞く、消ゆ、崩る、来、零す、超ゆ
サ行:さぶらふ、凍む、棲む、する
タ行:確かめるたたむ、呟く、つむる、飛ぶ、とる
ナ行:ながれる、鳴く、なる、にじむ、濡らす、眠る、伸びる、登る
ハ行:走る、果つ、はびこる、払ふ、吹き抜ける、ほかす
マ行:負ける、まるめる、むづかる、睦む
ヤ行:焼け落ちる、揺れる、読む、捩よぢれる
ラ行:弄す、論ず
ワ行:わたる、笑ふ
さて、連句を巻いていないとき私はロボットのことを考えている。これら、連句の運びの中で自然に得られた、まとまった量の動詞は俳句自動生成ロボットに取り込む語彙としてじつに貴重である。そういう観点でみると、文語(上ぐ、あり、…)、口語(おく、追ふ、泳ぐ、…)、方言(ほかす)、カ変(来)、サ変(弄す)、濁るサ変(論ず)、複合動詞(吹き抜ける、焼け落ちる)など、じつに多岐にわたっている。動詞の活用についてはこの連載の三回目で一度触れたが、法則として理解を超えているところがあり、カ変、サ変のあたり、これまでロボットへの取り込みを棚上げしていたところもある。ここは魔法の呪文を自分にかけよう。「しゃあねえ、やるか」と。
(『俳壇』2017年8月号(本阿弥書店)初出)
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ロボットが俳句を詠む
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