半年にわたって「ロボットが俳句を詠む」を連載してきたわけだが、俳句自動生成ロボット「はいだんくん」は今のところ人工知能ではない。単に、あらかじめ人間が仕込んだ句型に対し、あらかじめ人間が仕込んだ語彙を音数だけを合わせてランダムに流し込んでいるだけである。そのランダムであることが味噌で、ときに人間の常識に縛られない語の衝突が生まれる。それが楽しみでやっているだけなのだが、こういうことをやっていると、いろいろ言う人が現れる。「でもそれって『俳壇』に載せる句は最終的に人間が選んでるんでしょ?」「ロボットが自己学習して、句型や語彙を増殖してるわけじゃないんでしょ?」「そもそもロボット、俳句は作れても俳句を読むのは無理なんじゃないかしら?」「お気の毒にね」…。
いちいちごもっともである。でも、そんなことを言われると、人間はどうやって俳句を読んでいるのだろう。これはなかなか難しい。
初夏の夜やふるさとの落し蓋 はいだんくん
今、はいだんくんが適当に作り出した文字列である。これを俳句だと識別し鑑賞しようとするとき意識的にせよ無意識的にせよ人間は何を行っているのか。ちょっと箇条書きしてみよう。
① 既知の語や助詞を頼りに、文字列を構成要素に分解し意味を汲み取ろうとする。人間以外がやるには形態素解析という技術が必要となる。
→初夏/の/夜/や/ふるさと/の/落し蓋
② 五七五の定型に当てはめようとして、漢字で書かれた音数を補正する。初夏をショカと読むかハツナツと読むか、夜をヨと読むかヨルと読むかとか、などは、定型に当てはめてみないと多くの場合分からない。
→ハツナツの/ヨやふるさとの/落し蓋
③ 俳句に特有な季語、切れ字、比喩、句またがり、破調、音の調べ、ひらがな/漢字の表記選択などの技法の使われ方を汲み取ろうとする。
④ 過去に同じような句がすでに存在しないかを確認する(何をもって「同じような」というのかも悩ましい問題だ)。
⑤ 以上をほとんど瞬間的に行い、いいか悪いか判断する(しかも判断基準は所属する共同体によって劇的に異なっているのだ)。
人間ってすごいですね、としかいいようがない。
(『俳壇』2016年7月号(本阿弥書店)初出)
2016年6月14日火曜日
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