『星恋 表鷹見句集』(玻璃舎 2017年)をお送り頂く。いろいろな人に広く表鷹見のことを知ってほしいので、読み終わったら誰かに回すようにとのこと。
表鷹見(1928-2004)は俳誌『天狼』などで活躍した俳人。本句集は『天狼』遠星集から七十句ほど、同じく『天狼』から「残夢抄」と題された十八句、その他俳誌『ウキグサ』『星恋』からの句も含め全体でおよそ百句ほどが収録されている(途中、八田木枯選三句、鷹見自選三句があり、『星恋』には「遠星集」に発表した句も資料としてそのまま重複して収録されている)。また、遠星集入集分のうち十句については山口誓子による「選後独断」と題された評文があり、当時の評価ぶりが偲ばれる。さらに巻末には「紅絲 多佳子と行方不明の表鷹見に」という平成13年に書かれた八田木枯の二段組16ページに及ぶ文章も収録されている(出典の記載はなく未完。(その一)から(その四)まで分かれているので、『晩紅』あたりに連載されたものか)。こちらは俳誌『星恋』をともに世に出した八田木枯が、行方不明の表鷹見に対し「君」として宛てて、橋本多佳子などをめぐり当時の俳句情勢を回顧したものである。
以下、三島ゆかりなりに何句か読んでみたい。いくつかは誓子が「選後独断」で取り上げた句と重なるが、他意はない。
雪原へ出れば犬とも獣とも 表鷹見
道路も田畑も埋め尽くした一面の雪原を犬がまっしぐらに突っ走る。人間と暮らす我を忘れて動物の本性をさらけ出すさまを、「犬とも獣とも」と詠んでいる。
氷塊を木屑つきたるまゝ挽けり
『天狼』初年の頃は家庭用電気冷蔵庫も発泡スチロールも普及していなかっただろう。ちょっと検索してみると、かつて最善な断熱材とされたのはノコギリくずだったという。掲句、委細構わぬ氷屋の仕事ぶりが見えるようだ。
凧よりも少年濡れてかへるなり
八月三十一日に放送された「プレバト」(TBS系)で、たまたま「ずぶ濡れのシャツより甲虫取り出す 中田喜子(夏井いつき添削)」という句があった。そのすぐあとで掲句に出会ったので、雨が降ってきたから着物の中になんとか凧を濡れないように隠して帰宅したのだと、なんの抵抗もなく思う。一方、誓子は「選後独断」でこんなことを書いている。
雨は、少年と凧とひとしく濡らしたにちがひない。合理的鑑賞家は「凧よりも少年濡れて」を理性に合せずとするだろう。そして理性に合はしむる為め、少年が凧をかばつたとするだらう。それで理性の虫はをさまるかも知れぬ。しかし私にはこの「凧よりも少年濡れて」の非合理性が却て私の感情に合するのである。
「理性に合せざるも感情に合するもの」---自意識派はこれを解するの明を養ふべきである。
どうも私は自意識派と分類されるらしい。
(続く)
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