2017年11月14日火曜日

(24)【最終回】ロボットは死なず、ただ壊るるのみ

 最終回である。せっかくだから最後にロボットが詠んだ句を三十句載せよう。

   鱗               はいだんくん
ふくらみに渦巻く丘を桔梗かな
水澄むや胸の谷間の喫茶店
おだやかに天国を積む秋の恋
虫の夜にひとり染まつて更衣室
恋愛の行き過ぎてゐる秋黴雨
図書館に遅れる羽を夜露かな
色鳥を絞り始める除光液
秋霖に首都と染まつてゐる如し
骨盤も予感もなくて女郎花
うつくしき鮭は火星に染まるかな
おほぞらや鵙に微笑むお下げ髪
稲妻に染まるさみしさふくらはぎ
なかんづくしづかな耳を菊日和
秋の日のあふれ始めるハイヒール
兄弟のなめらかにして秋の雨
高気圧案山子の鼓膜消えかぬる
撫子の前髪や窓泣かんとす
惑星をしみじみ濡らす鰯雲
蟋蟀はをかしな森をもみあひぬ
いつせいに野分に染まる進路かな
聴覚の長月といふくだり坂
少年の耳の多くて鳥渡る
自ずからかなしき波を秋灯
幻聴の鱗となりてねこじやらし
爪先に渦巻く窓を秋の雲
倍音にかへる石榴や束ね髪
はらわたの花野のやうなひびきかな
これは櫛あれは耳かと秋の雲
長き夜の迅き漢字もあるならん
木星に微笑む影を冬支度


 結局のところ、俳句のようであろうとすることに何の意味があるのだろう。ロボットは気がつくと銀漢亭の前に立っていた。


(『俳壇』2017年12月号(本阿弥書店)初出)


追記 『プレバト』であるとき夏井いつきさんが「初心者はとかく、舞う、踊る、染まるなどを使いたがる」という話をされ、面白がって語彙の頻度設定を変えたままだったのを忘れていて、なんと「染まる」の頻度が100倍になっていました! 上の句群で「染まる」の句が何句あるかお暇な方は数えてみて下さい。

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