鯊天の朱字に惹かれて引戸かな とつかあ太
黙々と呑む関取の背 ゆかり
犬が行き荷車が行き秋深み 媚庵
通りすがりにふれる楠 桐子
羚羊ら裸婦の如きに怠けたる 四羽
ぐるぐる回る磁石の針が ゆらぎ
指し示す立待月の三陰交 葉月
十日の菊を出窓に飾る 槐
ウ 色鳥に紛れ散髪してゐたり 火尖
アニメ声なるラジオDJ 太
大陸の帽子でガラス越しに笑む り
復員兵は瀬島龍三 庵
満水のダム湖にねむる綴じ暦 子
陸の蛸ならジルバが得意 羽
枕絵の女となつてまなこ閉づ ぎ
甘き誘ひの開く口元 月
ガルウイングのベンツの抱く朧月 槐
野焼き帰りの貌の男等 尖
花守と呼ばるるにまだ若すぎて 太
戦を知らぬ長き髪の毛 り
噴く汗にざくざくと行く羅生門 庵
顎までずらすガーゼのマスク 子
二オ 大統領咳のはづみにポチッとな 羽
「いいね」ひとつに怯む総書記 ぎ
兄上と呼ばれ背筋を駆けるもの 月
ろくろつ首の抜衣紋へと 槐
折紙の余りに折紙の匂ひ 尖
風やはらかく揺るるカーテン 太
木洩れ日に窓といふ窓開け放ち り
三年生が吹くリコーダー 庵
ありふれた写真を流れ出るボレロ 子
裸足のままで走る国道 羽
御百度のさなかに猿が乱入し ぎ
バッハ会長夢見るやうに 月
聖火台に聖火こほらせ月のあを 槐
皆がやさしく磨く猟銃 尖
二ウ 均等に切り分くることなら得意 太
巴里から届く手紙数通 り
黄砂降り不破写真館閉館す 庵
蒲公英色の初代ビートル 子
丸眼鏡拭いて悪役春惜しむ 羽
やがて薬の効いてくる頃 ぎ
身に着ける学校指定の網タイツ 月
負けてばかりのジュースじやんけん 槐
月もろき夜のプールに忍び込み 尖
尾崎豊は友の後輩 太
恐るべきアンチエージングの秘術 り
ステンドグラスごしののどけさ 庵
花ひとひら水のひかりへためらはず 子
風炎の日の谷の泣き声 羽
三オ 誰ぞやの服の掛けある落し角 太
鉄の掟と鋼の心 月
母に憑くおキツネ様を燻し出し 庵
以後千年は水を打つべし 尖
さざれ石巌と為らずタピオカに 羽
右に左にかはす急坂 り
疎ましき求婚者たち髯の伸び ぎ
実習生の握るカミソリ 子
かほの傷かくしつつゆく朝帰り 槐
チャージ不足に開かぬ改札 太
またしても取り残されて涼あらた 月
運動会のピストルの音 庵
月といふ響きは硬き天地に 尖
ソイレントグリーンで乾杯 羽
三ウ 近未来小説よりも長生きす り
南柯の残夢蟻の巣に蟻 ぎ
一人また一人と欠ける列にゐる 子
ボーイズラブも老け専にして 槐
親方に手とり教はるかんな掛け 太
釘を使はず柱を組んで 月
切妻の屋根の彼方に鳥帰る 庵
穀雨の紙を選る鳩居堂 尖
メーデーの月が綺麗ですね社長 羽
元の名で呼ぶ酔ひの横丁 り
竹輪麩がおでんにないと不機嫌に ぎ
念のため遠ざけるデンモク 子
花の夜をKEEP OUTのテープの黄 槐
駆除班を待つすゞめ蜂の巣 太
ナオ 風船を馬鹿正直に追跡す 月
ハーポ・マルクス笑ひとまらず 庵
現役のブラウン管の虹の痕 尖
シルクロードの蛇に涙は 羽
神々の民そしてまた神の民 り
黄昏てゆくグローバリズム ぎ
いち早くユーチューバーになる詩人 子
姿は見えず猫の鳴きたり 槐
吸殻のあれよと貯まる駐車場 太
六道辿り五衰するひと 月
小雨降る午すぎの野に野菊咲く 庵
ゆんゆと撓む蜻蛉の空 尖
母さんは帰つて来ない昼の月 羽
同級生の用を足す音 り
ナウ 焼却炉に雪は吹き込む燃え上がる ぎ
ひだり手ばかり失くす手袋 子
ポケットにつきたるままのしつけ糸 槐
何を買ふにも妻の見立てで 太
納豆を練る速度にて世は流れ 月
占星術師錬金術師 庵
始まりの違ふ花ざかりの交差 尖
チヨコレイトと響く永日 羽
起首:2020年 9月24日(木)
満尾:2020年10月28日(水)
捌き:ゆかり
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