2011年1月28日金曜日

しれっと俳句に

ウラハイに桂信子について書いた「しれっと俳句に」が掲載されました。

2011年1月22日土曜日

きざし

 『炎環新鋭叢書シリーズ5 きざし』(ふらんす堂)を読む。最初に宮本佳世乃さん。
 まずは第一印象で八句。

桜餅ひとりにひとつづつ心臓      宮本佳世乃
 「ひとりにひとつづつ心臓」という当たり前の事実に対して季語を配合している句のようにも見えるが、桜餅を目の当たりにして詠んだ句のようにも思えてくる。桜餅の不思議な曲面が、こう並べられると心臓となんとも響き合っているではないか。

さうめんの水切る乳房揺れにけり    宮本佳世乃
 「桜餅」に続いて「さうめん」。佳世乃句には食べものの句が多い。とも言えるし、「心臓」に続いて「乳房」。佳世乃句には身体部位の句が多い。とも言えるし、後の句にもあるように、佳世乃句には「や」「かな」「けり」といった切れ字が、自然に取り込まれている、とも言える。その場合でも、いかにも俳句のようなつらをして、詠んでいる内容は佳世乃ワールドである。なんら過剰な思い入れもなく、言い放たれた「乳房」と「けり」が実によい。

夕焼けを壊さぬやうに脱ぎにけり    宮本佳世乃
 散文には翻訳できない。叙情的な句であるが、俳句の長さ以上の余分な感傷はない。ここでも「けり」が決まっている。

弁当の本質は肉運動会         宮本佳世乃
 これは可笑しい。「弁当の本質は肉」だけで実に可笑しいし、こんなふうに「本質」ということばを使われると、世間のうるさ型の「本質を理解していない」とか言う議論好きな人たちに「ざまあみろ」と返したくなるほど痛快である。「運動会」も単刀直入でよい。

ひまはりのこはいところを切り捨てる  宮本佳世乃
 どこということはできない。作者が明示しない以上「ひまはりのこはいところ」でしかないのだが、ひらがな表記によって旧仮名遣いが誇張され、なんだか定かでない不気味さが迫ってくる。その不気味さをそのまま残して詠むということをせず、スパっと「切り捨てる」ところに佳世乃句の味わいがある。

鬼百合の雌蘂に触れてしまひけり    宮本佳世乃
 たっぷりと俳句の長さを用いている。詠んでいる事実は「鬼百合の雌蘂に触れた」だけであるが、ここでも「けり」が決まっていて、すべての一語一語が機能し始め、性の呪いのようなものを感じる。俳句マジックであり、佳世乃マジックである。

ともだちの流れてこないプールかな   宮本佳世乃
 これは切ない。豊島園の「流れるプール」だろう。その固有名詞があってこその「流れてこないプール」である。こんな今ふうの情景が「かな」を用いた俳句形式へすっぽり収まる、その収まり具合が楽しい。ともだちが流れてこないまま、時が俳句の中に定着している。

しまうまの縞のつづきのぼたん雪    宮本佳世乃
 ひと続きに「しまうまの縞のつづきのぼたん雪」と詠み放ったところがよい。これも散文には翻訳できない。具体的な細部の欠落した夢のようなモノトーンの心象風景を感じる。

2010年12月31日金曜日

六吟歌仙・折鶴の巻

掲示板で巻いていた今年12巻目の連句が連衆の皆さんのお力により予告通り年内満尾。


六吟歌仙・折鶴の巻

   折鶴と星と触れ合ふ聖樹かな     ぽぽな
    手順どほりに点すストーブ     ゆかり
   童顔の国たつ汽車を待ちわびて     ぐみ
    県境の山越える草の実         恵
   万華鏡みれば無数の三日月       銀河
    眼帯のまま利酒に行き         篠
ウ  ハスキーな声で相槌うつ女        な
    セーターといふ青き山なみ       り
   片恋の北の宿にも春来たり        み
    光零るる海女の足元          恵
   むつくりとこは驚きの蜃楼        河
    スフィンクスから謎をかけられ     篠
   英雄は罪人となり夏の月         な
    あれぐろばるばろがりれおがりれい   り
   ベーコンと金平糖を買ひ忘れ       み
    卒業の朝五分刈りにする        恵
   花時の窓にペルシャの涙壺        篠
    子猫たずねるポスターの辻       河
ナオ 聞き覚えある声のして目が覚めて     篠
    外出前と帰宅直後と          河
   ぢかに口つけてミルクの紙パック     恵
    ひとり暮らしの名は悟空なり      み
   不如意にて伸び放題のものばかり     り
    アフロディーテの髪に潮風       な
   悪といふこと知らざるがパラダイス    河
    酸いも甘いもうたかたの日々      篠
   コスモスを渡され触るる指の先      恵
    色鳥あまた電気みなぎり        り
   親と子と寄り添ひて行く十三夜      み
    記憶の糸をやさしく手繰る       な
ナウ 雪降つて人形の目のあをあをと      篠
    アツカンがよくハシも器用に      河
   忍術のたしなみもなく歳かさね      り
    亀の甲羅の濡れて春めく        み
   花の雲こはさぬやうに息をして      恵
    西に東に光りゆく風          な

起首:2010年12月25日(土)04時50分17秒
満尾:2010年12月31日(金)23時06分1秒
捌き:ゆかり

2010年12月18日土曜日

四吟歌仙 目覚めればの巻

掲示板で巻いていた連句が満尾。


四吟歌仙 目覚めればの巻

   目覚めればとんと冬めく水辺かな     ぽぽな
    白き息吐き波立つ川面         ゆかり
   かさばれるメシエカタログ広げ見て  ざんくろー
    知らない国の切手をはがす       のかぜ
   執事しか入れぬ部屋の窓に月         な
    紅茶美味しき夜長始まる          り
ウ  八朔にくちびる寄せてよく分かる       ー
    預ける背に蜜語の響き           ぜ
   明日からはもう先生と呼べません       な
    石膏像の白目おそろし           り
   現実の浸食される火山灰           ー
    すべなく過ぎる夏の語らひ         ぜ
   地球儀にポツダムの位置確かめて       な
    西瓜番にも抑止力あり           り
   強情の静まり返る秋の沼           ー
    あかね蜻蛉の離散集約           ぜ
   幾千の花の莟は夢想する           な
    野良にもなれず望む鳥の巣         り
ナオ 諸葛菜教への窓辺後にして          ぜ
    へべれけとなり次ののれんへ        ー
   海老蔵が来たので誰もゐなくなる       り
    丑三つ時の闇はいたづら          な
   朔月に嘯くガレのひとよ茸          ぜ
    いかれた白い象の導き           ー
   カラー版江口寿史のポーズ集         り
    また使ひ方間違へてゐる          な
   頬被り今はレゲエのニット帽         ぜ
    おいらん淵で腰をくねくね         ー
   仙人は月から落ちて火の玉に         り
    見ないふりしてもろこし齧る        な
ナウ 左手馬手野分荒ぶる夢のあと         ぜ
    日米安保の傘を開きて           ー
   三猿のやうなこと言ふ片時雨         り
    付き合ひの良き新入社員          な
   歯車の回り始める花筵            ー
    ピッチカートで弾く春の野         ぜ

起首:2010年11月18日(木)
満尾:2010年12月18日(土)
捌き:ゆかり

2010年12月3日金曜日

六吟歌仙 さながらにの巻

掲示板で巻いていた連句が満尾。

六吟歌仙 さながらにの巻

   さながらに落ちゆく鮎のながめかな  ざんくろー
    崩れ簗には億のたましひ        ゆかり
   有明の月に福助頭を下げて         痾窮
    ふつと目をやる鏡台のうへ         七
   ぷるぷるとサプリメントの効き目あり    銀河
    冷蔵庫から琥珀のゼリー         苑を
ウ  真鶴のつがふ到達不能極           ー
    二億六千年前の海             り
   頂上に化石見つけるパリサイ人        窮
    バベルの塔を登り続けて          七
   タラの芽をまづ撮つてから御飯ですよ     河
    シャガール色に染まるきさらぎ       を
   淡月の幽かな記憶届けられ          ー
    ひたと寄り添ふ送り狼           り
   玄関に熊の親父の懐手            窮
    山姥の呼ぶ声木霊して           七
   長月のここ豪州に三分咲き          河
    珍種の虫に生まれ変はりぬ         を
ナオ ゆふぐれの危険を灯し烏瓜          り
    足早になる呪文を唱ふ           ー
   ハンプティダンプティどこここはだれ     七
    真夜のお城の長ききざはし         窮
   国道を北へ向かつてひた走る         を
    凍土のゆるむ日も来たりなん        河
   東郷といふ麦酒にて乾杯し          り
    幸と不幸を満たす撃鉄           ー
   島々の棚田を染める秋夕焼          七
    蛤となる雀をかしき            窮
   猫の目に波にただよふ月を見る        七
    毒とおもふな石見銀山           河
ナウ 語り部の背から雪の降りはじむ        を
    赤いショールと乙女の因果         ー
   占ひのテレビを消して家を出る        り
    つちふる中をざわめく鴉          窮
   夜の花の近づくほどに遠のきて        を
    元気をもらふ丘のはるかぜ         河

起首:2010年11月 3日(水)18時27分51秒
満尾:2010年12月 3日(金)07時13分55秒
捌き:ゆかり