2019年2月28日木曜日

ぎっくり腰のためのメモ

 腰痛持ちのひとりとして、これまで何度も治療を受けながら繰り返し聞かされた話をまとめておきます。

1.ぎっくり腰になったら(その日の対応)
・痛いところは冷やす(絶対温めない)
・いちばん痛くない姿勢で安静にする
・どうすれば痛いか確かめない
・血行がよくなることはしない(入浴、飲酒など)

2.ぎっくり腰の原因
①重すぎるものを持ったなど、急激な筋肉の負荷
②上と同じようなものだが、不安定な姿勢での咳・くしゃみ
③不自然な姿勢の継続(ベッドで本を読む、とか、屈んで植木を剪る、とか)

3.激痛は筋肉の使用禁止指令
 筋肉に限界近い負荷がかかったとき、脳は「激痛」によりその筋肉を使用しないよう指令を出します。筋肉への負荷がなくなっても、指令した状態が継続している間は、「激痛」によりその筋肉が使えない状態が続きます。ですので、どうすれば痛いか確かめない、というのも早く回復するためのポイントとなります。

4.痛みの段階
(当日)歩行できない、寝返りもできないくらいの激痛があります。
(2~3日)寝ていて起きるとき、座っていて立つときなど、大きく姿勢を変える場合に激痛があります。また、同じ姿勢を続けていると激痛があります。
(4日~3週間)なにかの拍子に痛みはありますが、しだいに日常生活ができるようになります。ある日、呪いがとけるように痛みがなくなります。

5.どこに診てもらうか
 ぎっくり腰は、骨の問題ではなく筋肉の問題なので、レントゲンで患部を特定することはまずできません。きちんと触診のできる技術を持った整骨院で診てもらって下さい。「2.ぎっくり腰の原因」の①②の場合は急激な力により関節がずれている場合があるので、放置せず動けるようになったところで診てもらって下さい。
 「仙腸関節がずれています」「足の長さが左右で違っています」「身体に正しい姿勢を覚え込ませるために長期的に通院して下さい」などと言われることがありますが、柔道整復師による慢性的な治療に対して健康保険の適用を認めない組合も多いので、 いつまで通院するかは注意が必要です。

6.痛む期間の立ち上がり方
①寝たまま寝返りを打って、片方の腕が上になるようにする(横向きになる)。
②からだが横向きのままひざを上体に近づけ「くの字」に曲げる。
③下になった腕の肘を身体の下にねじ込む。
④下の腕の肘と上の腕の手のひらを使い、腕の力で上体を起こしざまに足をベッドのへりから下ろし座位となる。
⑤足の両側のベッドに手のひらを添える。
⑥上体を前に体重移動しつつ、手のひらで上体を押し出すように立ち上がる。

(これは、知っていると老人を起こすとき、そのまま役立ちます。)

7.よい寝相は腰痛の敵
 「2.ぎっくり腰の原因」③にも関係がありますが、寝ていると体重で圧迫された筋肉に乳酸という痛みの原因になる物質がたまります。多くの腰痛持ちの方が、寝起きほど腰が痛いといい、日によって痛む場所が異なるのは、そのせいです。ですので、ぎっくり腰の場合もある程度寝返りが打てるまで痛みが軽減したら、以後積極的に寝返りを打って下さい。一晩25回が目安です。

8.腰痛にまつわるその他
・週末の寝だめはよくない。
・椅子に坐ったときに足を組むのはよくない。
・クラシックギターの足台はかかとよりつま先が低い方が楽。

9.健康保険組合からレポートを求められたときの書き方
  健康保険組合が柔道整復師による慢性的な治療に対して健康保険の適用を認めないことにより、レポートを求められることがあります。その場合は通院した整骨院に相談して下さい。要点は以下です。
・症状…○○部挫傷 必ず「挫傷」という単語を使う。
・施術内容…固定、湿布などは可。「マッサージ」は不可。



2019年2月14日木曜日

「五吟歌仙 寒月の巻」評釈

   寒月のふくらみてゆく家路かな   あんこ

 起首は2019年1月21日(月)。国立天文台のサイトによれば月齢15.1、月の出17:01。上ったばかりの月は屈折の関係で巨大に見える。連句には月の座というものがあるが、そんな巨大な満月を目の当たりにしたらお構いなしに発句にするしかないだろう。のちのちいろいろなことを引き起こすだろうが、それはのちのち考えればいいことだ。

   寒月のふくらみてゆく家路かな   あんこ
    おでんの種のふたり分強     ゆかり

 発句の「家路」を受け、脇は夕食の献立とした。「強」に若干のいたずら心があるが、そんな挨拶も許されるだろう。

    おでんの種のふたり分強     ゆかり
   わたつみのそこひに泡の生まるらん  登貴

 第三は発句と脇の挨拶から離れ飛躍する。前句の鍋の泡立ちから海の底に思いを馳せている。「わたつみ」「そこひ」という古語のニュアンスと「らん」が効いている。なお、発句の中で「ふくらみて」と、「て」が使われているので、ここでは第三によくある「て止め」を回避している。

   わたつみのそこひに泡の生まるらん  登貴
    残暑の港町の教会         媚庵


 前句の深海の暗いイメージに対し、白昼の港町の教会を遣り句的に置いている。次が月の座なので秋の句としている。

    残暑の港町の教会         媚庵
   十六夜のガラスの欠片集めゐて    なな

 月の座であるが、発句に「寒月」があるので敢えて「月」の字を出さず、「十六夜」としている。前句の教会は破壊されたのだろうか。月下にステンドグラスの欠片がきらめいている。

   十六夜のガラスの欠片集めゐて    なな
    記憶にはなきかりがねのこゑ     こ

 破壊に記憶はつきものであるが、敢えて記憶にないものを挙げている。ここで初めて聴覚的な情報が登場する。なお、「寒月の」「おでんの」「わたつみの」と「の」が続いてしまうことについてこの辺りで意見があり、では全部「の」を入れようではないかということになる。『アリババと四十人の盗賊』では、盗賊がドアに目印をつけたことに気づいた召使いのモルギアナが、街のすべてのドアに目印をつけ、それにより盗賊はどの家だか分からなくなった。それにあやかり瑕疵を全部の句に施し、分からなくしてしまおうという狙いであり、この座では戯れに「モルギアナ方式」と呼んでいる。

    記憶にはなきかりがねのこゑ     こ
ウ  針飛びの華麗なる大円舞曲       り

 初折裏折立である。ここから名残表折端までの二十四句はあばれどころとなる。前句「記憶にはなき」に対し、記憶にあるものとして「華麗なる大円舞曲」を聴いていたら針が飛んだことにした。三句続いた秋を離れている。

ウ  針飛びの華麗なる大円舞曲       り
    目薬を買ふ仲のおいらん       貴

 前句の聴覚情報に対し、視覚になにか問題があることをほのめかしている。ここから恋の句である。

    目薬を買ふ仲のおいらん       貴
   三畳にレースの下着吊るされて     庵

 花魁とは名ばかりの娼婦のヒモの視線なのだろうか。せまい部屋に無造作に下着が干されている。なかなか凄惨である。

   三畳にレースの下着吊るされて     庵
    紙袋よりサボテンの棘        な

 プレゼントなのだろうか。紙袋よりサボテンの棘が覗いている。

    紙袋よりサボテンの棘        な
   祝と呪の右は同じと囁かれ       こ

 このあたりまでが恋。ちょっとした行き違いで破局に向かう。漢字での遊びとなっている。前句「サボテン」が夏の季語なので、夏の月を出すとすればこのあたりだが、発句が「寒月」なので夏の月は出さないものとした。

   祝と呪の右は同じと囁かれ       こ
    火星人めく妹の脚          り

 「祝」と「呪」の右である「兄」は妙に脚が長いので「火星人めく」としたが、そのままでは面白くないので「妹」とした。火星人の兄の妹はやはり火星人だろう。

    火星人めく妹の脚          り
   赤貝の紐に塗り箸先細き        貴

 「火星人めく」から「赤貝の紐」が導かれている。赤貝は春の季語。

   赤貝の紐に塗り箸先細き        貴
    一息に飲むタンポポの酒       庵

 春が出たので春の句を三句以上続ける必要があるが、花の座まではだいぶあるので素春(=花の座を含まない春)とすることとし、逆に花の座を意識すると使いにくいものとして「タンポポ」とした。なお、レイ・ブラッドベリの読者であれば『たんぽぽのお酒』に気づき、『火星年代記』があるから打越ではないかと言うであろうが、世の中ブラッドベリの読者ばかりではないのでよしとした。

    一息に飲むタンポポの酒       庵
   山羊の毛と羊の毛刈る少年の      な

 『たんぽぽのお酒』から「少年」が導かれているのであろうが、長句全体を使って主語にしかなっていない遣り句である。三十六句の中にはそういう句もありだろう。春の句はここまで。

   山羊の毛と羊の毛刈る少年の      な
    影の大きく伸びる夕さり       こ

 前句の主語を用い、日の傾いた印象的な景としている。「夕さり」という古いことばが効いている。

    影の大きく伸びる夕さり       こ
   燭の火の揺れて花嫁しづしづと     り

 初折裏折端前は花の座であるが、すでに春ではないので「花」の字のみを用い「花嫁」とした。前句「影の大きく伸びる」の手前に光源である「燭の火」を配している。

   燭の火の揺れて花嫁しづしづと     り
    涼しき縁に書きかけの経       貴

 前句のある種おどろおどろしい景を離れ、涼しげに転じている。

    涼しき縁に書きかけの経       貴
ナオ 薩摩琵琶さらふ念者のにほひたつ    庵

 名残表折立である。あばれどころはまだまだ続く。「念者」は男色の関係で、若衆を寵愛する側の人。「涼しき」が弟分で、「にほひたつ」のが兄分ということだろう。ここから衆道の恋。

ナオ 薩摩琵琶さらふ念者のにほひたつ    庵
    ほどきし帯の柄の逆しま       な

 ほどいた帯の乱れたさまを詠んでいる。

    ほどきし帯の柄の逆しま       な
   くちびるへ人差し指のやはらかく    こ

 他言無用ということだろう。ここまでが恋。

   くちびるへ人差し指のやはらかく    こ
    スクイズせよのサイン見落とす    り

 前句を野球のサインだととりなしている。

    スクイズせよのサイン見落とす    り
   ステージに残されてゐる銀の靴     貴

 大失態を並べ転じている。

   ステージに残されてゐる銀の靴     貴
    馬賊が走る満州の原         庵

 銀の靴の主を略奪したのだろうか。このあたり、あばれどころだけにあわただしく場面を転じる。

    馬賊が走る満州の原         庵
   降るたびに雪の礫を作りたる      な

 初折裏折端以来ずっと無季であったが、ここで冬としている。

   降るたびに雪の礫を作りたる      な
    いろはにほへと乳の溢れて      こ

 雪の白から「色は匂へど」が導かれ、言葉遊びは「ち」までまたがる。乳母に養育を託され乳が止まらない高貴な女性だろうか。

    いろはにほへと乳の溢れて      こ
   干草を飛び越え犬の胴長し       り

 前句「乳の溢れて」は牛かなにかのようである。飼料の干草を犬が飛び越えている。

   干草を飛び越え犬の胴長し       り
    野分吹き過ぎ静寂の街        貴

 前句「飛び越え」は跳躍ではなく吹き飛ばされていたようである。月の座の前で秋としている。

    野分吹き過ぎ静寂の街        貴
   月光の石畳踏みゆく軍靴        庵

 静寂を打ち破り軍靴の足音が響く。「月光」「石畳」「軍靴」と硬質なものを配している。

   月光の石畳踏みゆく軍靴        庵
    案山子の服に岩波文庫        な
 
 「遺品あり岩波文庫『阿部一族』 鈴木六林男」を踏まえたものだろうか。しかしながら「案山子の服に」は論理を超えた飛躍がある。

    案山子の服に岩波文庫        な
ナウ 窓際の席と決めたる日曜日       こ

 名残裏折立である。ここからは節度をわきまえ進行する。喫茶店だろうか。前句の「岩波文庫」を読むのだろう。

ナウ 窓際の席と決めたる日曜日       こ
    つぎつぎ開くゆふぐれの傘      り

 折しも窓の外では雨が降り出し、通行人の傘が次々開く。

    つぎつぎ開くゆふぐれの傘      り
   長靴の五歳にもどる夢を見て      貴

 前句を夢の中のできごととして、五歳の自分とした。

   長靴の五歳にもどる夢を見て      貴
    テレビ画面に魔女の鉤鼻       庵

 五歳が観るようなアニメだろう。ディズニーの『白雪姫』の魔女あたりか。

    テレビ画面に魔女の鉤鼻       庵
   千年の花の間近にパイプ椅子      な

 花の座である。こう付けると前句の魔女が千年以上の長寿で、魔法により千年間桜を咲かせ続けたような気がしてくる。もうよぼよぼなので、魔法をかけるときはパイプ椅子を出してくるのである。

   千年の花の間近にパイプ椅子      な
    春たけなはの宴のはじまり      こ

 キャパシティ以上に人が集まりパイプ椅子を出しての宴が始まる。めでたい景で挙句としている。

2019年2月13日水曜日

五吟歌仙 寒月の巻

   寒月のふくらみてゆく家路かな   あんこ
    おでんの種のふたり分強     ゆかり
   わたつみのそこひに泡の生まるらん  登貴
    残暑の港町の教会         媚庵
   十六夜のガラスの欠片集めゐて    なな
    記憶にはなきかりがねのこゑ     こ
ウ  針飛びの華麗なる大円舞曲       り
    目薬を買ふ仲のおいらん       貴
   三畳にレースの下着吊るされて     庵
    紙袋よりサボテンの棘        な
   祝と呪の右は同じと囁かれ       こ
    火星人めく妹の脚          り
   赤貝の紐に塗り箸先細き        貴
    一息に飲むタンポポの酒       庵
   山羊の毛と羊の毛刈る少年の      な
    影の大きく伸びる夕さり       こ
   燭の火の揺れて花嫁しづしづと     り
    涼しき縁に書きかけの経       貴
ナオ 薩摩琵琶さらふ念者のにほひたつ    庵
    ほどきし帯の柄の逆しま       な
   くちびるへ人差し指のやはらかく    こ
    スクイズせよのサイン見落とす    り
   ステージに残されてゐる銀の靴     貴
    馬賊が走る満州の原         庵
   降るたびに雪の礫を作りたる      な
    いろはにほへと乳の溢れて      こ
   干草を飛び越え犬の胴長し       り
    野分吹き過ぎ静寂の街        貴
   月光の石畳踏みゆく軍靴        庵
    案山子の服に岩波文庫        な
ナウ 窓際の席と決めたる日曜日       こ
    つぎつぎ開くゆふぐれの傘      り
   ゴム長の五歳にもどる夢を見て     貴
    テレビ画面に魔女の鉤鼻       庵
   千年の花の間近にパイプ椅子      な
    春たけなはの宴のはじまり      こ


起首:2019年 1月21日(月)
満尾:2019年 2月13日(水)
捌き:ゆかり

2019年1月21日月曜日

七吟歌仙 東京の巻 評釈

   東京の夜に平成の淑気かな       媚庵

 まさに平成最後の新年ならではの発句である。夜明け前を淑気として詠んでいるところが眼目であり、平成を惜しむ万感の思いがある。

   東京の夜に平成の淑気かな       媚庵
    やがて迎へる最後の初日      ゆかり

 脇は発句に寄り添い、平成としての最後の初日の出に思いを馳せている。

    やがて迎へる最後の初日      ゆかり
   横綱の決めた覚悟の伝はつて      風牙

 第三は脇のハツヒをショニチと読み替えて展開している。この第三が付いたのは一月三日だが現実は覚悟だけではどうにもならず、稀勢の里は初日から三連敗の末、一月十六日引退した。

   横綱の決めた覚悟の伝はつて      風牙
    こむらがへりのかすかにかすめ    青猫

 「かすかにかすめ」くらいであれば自身のこむら返りだろう。前句「決めた覚悟」からk音の頭韻強調が続き、遣句的に付けている。

    こむらがへりのかすかにかすめ    青猫
   カーテンに金糸銀糸でかがる月    れいこ

 月の座であるが、前句を受けて安静にしている室内の様子としたためか虚の月となっている。ここでもk音の頭韻強調が続くが、反復音に関する禁忌が連句においてあるのかないのか捌き人は知らない。

   カーテンに金糸銀糸でかがる月    れいこ
    飾りすぎたる案山子を据ゑる     月犬

 秋の句を続け案山子としているが、なんとも月光仮面のようである。ここでもk音の頭韻強調が続く。というか月犬さんに言われるまで気がつかなかったのが真相。


     飾りすぎたる案山子を据ゑる     月犬
ウ  鶺鴒の叩くあたまのみづの音      秀雄

 初折裏折立。ここからは名残表折端まで大いに羽目をはずす。秋の句は三句続ける。鶺鴒はまたの名を石たたき、庭たたき。尾を上下に振って石や地面を叩くらしい。案山子とか石頭とか呼ばれる人物の空っぽな頭が西瓜のような音を立てるさまを思い浮かべる。

ウ  鶺鴒の叩くあたまのみづの音      秀雄
    栞をはさむ濹東綺譚          庵

 絶妙な場面展開である。『濹東綺譚』は私娼窟・玉の井を舞台とした永井荷風の小説。恋の呼び出しか。

    栞をはさむ濹東綺譚          庵
   音もなくスカイツリーの影のびて     り

 恋の呼び出しには応ぜず見送っている。玉の井は向島百花園の近くなので、その辺りならスカイツリーの影がのびていることだろうと付けた。

   音もなくスカイツリーの影のびて     り
    モスラが次に現るゝとき        牙

 往年の怪獣映画『モスラ』では東京タワーに繭を作る。スカイツリーなので「次に現るゝとき」としている。

    モスラが次に現るゝとき        牙
   暴動ののちの向日葵昏睡す        猫

 夏の昼下がりの静寂をとらえているが、モスラの繭と響き合うものがある。

   暴動ののちの向日葵昏睡す        猫
    衛星写真に映るあなたと        こ

 前句「向日葵」を気象衛星の名と読み替えている。「あなた」は人物だろうか、遠方だろうか。

    衛星写真に映るあなたと        こ
   言ふならば未亡人的腰使ひ        犬

 前句「あなた」を受けてすかさず恋の句に突入する。気象衛星から超高精細度で腰使いが未亡人的であることまで分かるのだとしたら、それはそれで恐ろしい。

   言ふならば未亡人的腰使ひ        犬
    吸はれて茎の塵となるまで       雄

 あちゃあ、塵になってしまいましたか。

    吸はれて茎の塵となるまで       雄
   日の丸に礼す建国記念の日        庵

 あざやかに転じている。ところで「建国記念の日」は日が特定できる「記念日」ではなく「記念の日」という胡散臭い祝日であり、「日の丸に礼す」にはシニカルなニュアンスがある。

   日の丸に礼す建国記念の日        庵
    御恩報ひず春の容疑者         り

 皇室的なものを思い浮かべようとすると「御恩」という言葉がよぎるが、ここでは語呂合わせでゴーン容疑者を詠んだ。無理矢理春の句に仕立てている。

    御恩報ひず春の容疑者         り
   一房を千切るは易き花の枝        牙

 花の座である。ゴーン容疑者といえば独房であるが、「房」という漢字は音読みと訓読みでぜんぜん意味が違う。それをうまく利用してうつくしくまとめている。

   一房を千切るは易き花の枝        牙
    すでに文殻水の流れに         猫

 春を離れて付けている。前句のイメージから文殻が導かれている。


    すでに文殻水の流れに         猫
ナオ コーラスのところどころに城達也     こ

 不思議な付き具合だが、「流れ」を英語にして「ジェット・ストリーム」の城達也が導かれているのだろうか。

ナオ コーラスのところどころに城達也     こ
    北京のノイズ幽かに聴こえ       犬

 ラジオの混信を詠んでいる。

    北京のノイズ幽かに聴こえ       犬
   日のなかを石踏みながら戦車くる     雄

 なんとも国情不安である。

   日のなかを石踏みながら戦車くる     雄
    夏草揺らすノストラダムス       庵

 後世から遡りひょうひょうと予言者を詠んでいる。

    夏草揺らすノストラダムス       庵
   けふもまた火星おほきくなつてゐて    り

 予言者に対し惑星の運行で付けている。

   けふもまた火星おほきくなつてゐて    り
    多分煙草と違ふ匂ひだ         牙

 前句を薬物による幻覚と捉えている。

    多分煙草と違ふ匂ひだ         牙
   ゆめやゆめうつつやうつつうすべにの   猫

 呂律の回らない遣句としている。

   ゆめやゆめうつつやうつつうすべにの   猫
    家政婦は見た白菜の虫         こ

 前句「うすべにの」の正体を白菜の虫としている。ところでこの句が付けられたのは一月十日だったが、なんの虫の知らせか一月十二日に「家政婦は見た」の市原悦子さんが亡くなった。

    家政婦は見た白菜の虫         こ
   アリランの調べは雪の丘を越え      犬

 その出演作品になにか由来があるのか、大きな景で付けている。白菜の白が雪の丘と響き合う。

   アリランの調べは雪の丘を越え      犬
    谷の底から来る隠喩たち        雄

 上から来るものに対し下から来るものを付けているが、「隠喩たち」というメタレベルな措辞が可笑しい。

    谷の底から来る隠喩たち        雄
   真夜中の月明り浴びバスの中       庵

 月の座である。谷の底からひたひた忍びよる隠喩には気づかないかのようにバスが走る。

   真夜中の月明り浴びバスの中       庵
    蚯蚓鳴くてふルージュの伝言      り

 前句「バス」を風呂に読み替えて荒井由実を引用している。ルージュで「蚯蚓鳴く」と書いたことにして秋の句としている。


    蚯蚓鳴くてふルージュの伝言      り
ナウ また同じ人がドラムス文化祭       牙

 名残裏折立である。ここからは容儀を正し挙句を目指す。出演するバンドはいくつもあるのに、また同じ人がドラムスという文化祭あるあるで付けている。ついでにいうと「ルージュの伝言」のドラムスはなかなか凝っていて難しい。

ナウ また同じ人がドラムス文化祭       牙
    ほつと息して記紀をひもとく      猫

 学園祭も一段落し研究生活に戻る。なんとなく「ルージュの伝言」→「魔女の宅急便」→「キキ」という別ルートの連想に導かれているような気もする。

    ほつと息して記紀をひもとく      猫
   木曜の肘掛椅子の反り具合        こ

 日常生活のディテールを詠んでいる。この人は木曜だけ違う場所で仕事をしている。

   木曜の肘掛椅子の反り具合        こ
    螺鈿細工の秘密の小匣         犬

 その木曜日の特別な部屋には螺鈿細工の秘密の小匣がある。

    螺鈿細工の秘密の小匣         犬
   本能の蓋をひらけば花明り        雄

 小匣に封印されていたのは本能で、開くと花明りがあふれる。官能的な味わいのある花の座である。

   本能の蓋をひらけば花明り        雄
    縄文弥生鳴く百千鳥          庵

 前句が視覚的であるのに対し、挙句では音響的に補完している。発句は「平成」という一元号を惜しむものであったが、挙句は縄文弥生以来脈々と続く本能の快楽をたからかに歌い上げている。
 

2019年1月18日金曜日

七吟歌仙 東京の巻

   東京の夜に平成の淑気かな       媚庵
    やがて迎へる最後の初日      ゆかり
   横綱の決めた覚悟の伝はつて      風牙
    こむらがへりのかすかにかすめ    青猫
   カーテンに金糸銀糸でかがる月    れいこ
    飾りすぎたる案山子を据ゑる     月犬
ウ  鶺鴒の叩くあたまのみづの音      秀雄
    栞をはさむ濹東綺譚          庵
   音もなくスカイツリーの影のびて     り
    モスラが次に現るゝとき        牙
   暴動ののちの向日葵昏睡す        猫
    衛星写真に映るあなたと        こ
   言ふならば未亡人的腰使ひ        犬
    吸はれて茎の塵となるまで       雄
   日の丸に礼す建国記念の日        庵
    御恩報ひず春の容疑者         り
   一房を千切るは易き花の枝        牙
    すでに文殻水の流れに         猫
ナオ コーラスのところどころに城達也     こ
    北京のノイズ幽かに聴こえ       犬
   日のなかを石踏みながら戦車くる     雄
    夏草揺らすノストラダムス       庵
   けふもまた火星おほきくなつてゐて    り
    多分煙草と違ふ匂ひだ         牙
   ゆめやゆめうつつやうつつうすべにの   猫
    家政婦は見た白菜の虫         こ
   アリランの調べは雪の丘を越え      犬
    谷の底から来る隠喩たち        雄
   真夜中の月明り浴びバスの中       庵
    蚯蚓鳴くてふルージュの伝言      り
ナウ また同じ人がドラムス文化祭       牙
    ほつと息して記紀をひもとく      猫
   木曜の肘掛椅子の反り具合        こ
    螺鈿細工の秘密の小匣         犬
   本能の蓋をひらけば花明り        雄
    縄文弥生鳴く百千鳥          庵

起首:2019年 1月 3日
満尾:2019年 1月18日

捌き:ゆかり