2019年10月28日月曜日

七吟歌仙 韃靼人の巻

   長き夜の韃靼人の踊りかな     りゑ
    後の月にはのちのしづかさ    三島
   とりどりに拾ふ橡の実などありて  詠犬
    私語の聞こえる教壇にたつ    ハク
   それつぽく髪を乱して白手套    西生
    風力計も折れんばかりに     天気
ウ  欠航を告げられてゐる不倫行    真人
    袖すり合ふも蛸壺の縁       ゑ
   暗がりに眠る天文科学館       島
    いちご畑にジョン・レノン立つ   犬
   Dm-E-C-Eと弾きつづけ     ク
    だんだんずれるネクタイの柄    生
   縊死の木の下に始まる名推理     気
    力学を説く前歯欠けたる      人
   トム猫がジェリーを攫ふ月朧     ゑ
    知らない町を歩くお彼岸      島
   花冷えの永楽銭の穴四角       犬
    聞かず顔にて長煙管とり      ク
ナオ 土曜日の綺麗な靴の逃亡者      生
    グエンカオキの曾孫と名乗る    気
   怪しげな投資顧問の事務所にて    人
    ゼムクリップは炎の匂ひ      ゑ
   手作りの詩集の並ぶ棚二段      島
    インスタグラムに朗読の声       犬
   新郎は落研にゐたこともあり     ク
    首を振るたび違ふ横顔       生
   路地裏を鈴の音よぎる今朝の秋    気
    暑中見舞を出しそびれたる     人
   宙返りして見る月も丸かつた     ゑ
    崩れ簗ある三半規管        島
ナウ 中年の独り言聞く夜の坂       犬
    酒のにほひが雪を降らせる     ク
   人柄で保たれてゐる鯛焼屋      生
    瀬戸内海を航(わた)る佐保姫   気
   水軍の裔ともどもに花の宴      人
    風船乗りは西へ東へ        ゑ


起首:2019年10月13日(日)
満尾:2019年10月28日(月)

2019年10月27日日曜日

七吟歌仙 自然薯の巻

   自然薯の自我肥大たる湿度かな    なむ
    生きて腸まで届く山かけ     ゆかり
   満月を横切る貨車は音たてて    れいこ
    ページの焼けた擬声語辞典      槇
   ポラロイドカメラが彼をひらきだす  トキ
    雲形定規に物語あり        洋子
ウ  眉太く描いて待ちをる鶴女房      槐
    見るなと云へど閨の特権       む
   入道のこんなところに手が墨が     り
    天守閣から下す釣り糸        こ
   えきそばに芒種の月をトッピング    槇
    つゆの向うへ平泳ぎする       キ
   手も足も銀紙のやう夢のやう      子
    薄氷を踏む新品の靴         槐
   ゆかしくもなにやら蕗の薹立ちて    む
    三十路つどへる午後ののどけさ    り
   大阪のおつちやんたちと花の下     こ
    胸ポケットに仁丹のある       槇
ナオ 凍て星の粒のひとつをJAXA指す   キ
    ブラックホールといふ叙情詩     子
   約束の二時にどこでもドアの前     槐
    いやだおとなになりかけてゐる    む
   つぎつぎに猫が木となる猫の森     り
    つんつんしたり丸くなつたり     こ
   モヒカンをおつ立てたまま死ぬつもり  槇
    等身大のパンが焼かれて       キ
   なま肉に塩胡椒ふるタイミング     子
    CMあけてすいつちよの鳴く     槐
   箱に箱積んで月光裡の路肩       む
    木犀の香のことに激しき       り
ナウ 乾杯のグラスにどなたかの指紋     こ
    金田一来て頭を掻いて        槇
   あはゆきの音韻としてあらはるる    キ
    鳥帰る日のふるき木の椅子      子
   花守もふらと加わる花の昼       槐
    羽化する蝶のごとくまどろむ     む


起首:2019年10月16日(水)
満尾:2019年10月27日(日)

2019年9月26日木曜日

不定期刊連句誌『みしみし』第三号発売

不定期刊連句誌『みしみし』第三号、9/26発売しました。
ご注文は以下までお願いします。「アットマーク」を@に変えてご利用下さい。
officemisimisi
アットマーク
gmail.com
定価1000円(送料、消費税込み)
今回も豪華連衆です。 あの話題の人も、あのまさかの人も。
【内容】
・七吟歌仙 日傘さしの巻
・七吟歌仙 つけて名をの巻
・七吟歌仙 かなかなの巻
・上記三巻の評釈
・連衆作品(敬称略)★ネットでは読めません。
沢茱萸、瀧村小奈生、赤野四羽、藤原龍一郎、近恵、八上桐子、西川火尖、小久保佳世子、大室ゆらぎ、亀山鯖男、小池正博、ウエマツナナエ、仲田陽子、柏柳明子、堀本吟、月犬、羽田野令、三島ゆかり
・「生駒大祐『水界園丁』を読む」

不定期刊連句誌『みしみし』第三号はみしみし舎への直接ご注文以外に、以下の各店でもお求めになれます。ぜひ手に取ってご覧下さい。

札幌のがたんごとんさん、早稲田の古書ソオダ水さん、明大前の七月堂古書部さん、下北沢の本屋B&Bさん、松本の栞日さん、梅田の蔦屋書店さん、神戸元町の1003さん、福岡の「本のあるところ ajiro」さん、松山の「本の轍」さん

2019年9月7日土曜日

『水界園丁』を読む(6)

 最終章は「秋」である。これまで見てきたような無生物の生命体化や「絵」への固執は本章においてもますますあらわで豊穣な季節を彩る。が、同じような句を挙げてもしょうがないので、違う観点からもう少し見てみよう。

  烏瓜見事に京を住み潰す  生駒大祐
 「住み潰す」はあまり見かけない複合動詞であるが、壊れるまで住み続けるということだろう。あくまで実作者としての直感でしかないが、この句、最初は「今日を住み潰す」と一日の終わりを詠んだものだったのではないだろうか。そこから同音異義語である古都を得て最終稿としたのではないかという気がしてならない。複合動詞の句では他に「擦りへりて月光とどく虫の庭」「鳥渡る高みに光さしちがふ」などが印象的である。

  天の川星踏み鳴らしつつ渡る
 複合動詞に限らず、生駒句には一句の中に動詞をふたつみっつと詰め込んだものが多い。「ある」「ゐる」なども動詞に数えるならばじつに多い。「虫籠の中の日暮や爪楊枝」「星空にときをりの稲光かな」のような動詞のない句もある一方で、生駒句を特徴づけているのは「覚えつつ渚の秋を遠くゆく」「雁ゆくをいらだつ水も今昔」などである。無生物の生命体化と一句の中の動詞の多用は、たぶん密接な関係がある。

  ゆと揺れて鹿歩み出るゆふまぐれ
 挙句である。多分にもれず動詞三個(うち二個は複合動詞を形成)を畳み掛けるが、眼目は句頭の「ゆ」だろう。動作の作用や状態を表す格助詞「と」の前に置かれ、句中に四回現れるyu音として調べを整えるとともに、たった一音、たった一文字で曰く言い難い状態を表現している。これは田島健一の「ぽ」とともに語り継がれるべき「ゆ」であろう。

2019年9月5日木曜日

『水界園丁』を読む(5)

 「夏」の章を見てみよう。すでに作者の術中にかなりはまっている自分にあらためて気がつく。

  五月来る甍づたひに靴を手に  生駒大祐
 この二句後には「夏立つと大きく月を掲げあり」があり、さらにページをめくると「夏の木の感情空に漂へり」がある。生駒ワールドでは「五月」も「夏」も「木」も、あるいは「雲」も世界の構成要素として生命を与えられている。「春」の章には「佐保姫に紅ひく神の大きな手」があったが、動植物のみならず時や気象現象も佐保姫と同じように神に司られた生命体で、ときに人の姿をまとう。単に擬人化によりうまいこと言ったぜという底の浅い措辞ではないようなのである。

  雲を押す風見えてゐる網戸かな
 ここでの「風」もそのようにして生命体である。この一句だけ見れば、人によっては聖教新聞のテレビCMの「僕は風さん見えるよ」という子役を思い出すかもしれないが、句集をここまで読んできて感じるのは、俳句を通じて自然と接することにより獲得したであろう独自にして強固な世界観である。

  心中のまづは片恋たちあふひ
 道ならぬ一途な想いの行く末が初めから見えているのだろう。「たちあふひ」の軽佻浮薄なうつくしさがなんとも不吉である。

  蟬の穴より浅くあり耳の穴
 「蝉の穴蟻の穴よりしづかなる 三橋敏雄 」へのオマージュだろう。まこと人間が見聞きできるのは表層のできごとでしかない。

  蚊遣の火消えゐる波の響きかな
 幼少の旅行の記憶だろうか。波の響きにふと目が覚めると蚊取線香の火が消えている。状態の持続の「ゐる」と「波の響きかな」と句末に詠嘆する語順が絶妙である。

  夕凪の水に遅れて橋暗む
 「遅れて」がよい。平面である水面に比べれば鉛直に立ち上がっている橋の側面は、そのぶん夕日を受けている時間が長いのだろう。それが暗くなるまで見届けている時間の経過が「遅れて」である。先の「蚊遣」句の「ゐる」といい、本句の「遅れて」といい、時間の経過の捉え方のゆたかさがじつによい。俳句は一瞬を切りとったものがよいとする言説をしばしば見かけるが、決してそれだけが俳句ではない。

  暇すでに園丁の域百日紅
 そのあたりを自解した句なのだろう。『水界園丁』という句集では、そのように時間が流れている。