戌年の用意二人で川へ行く 岡野泰輔
戌年という干支が絶妙に可笑しいです。いったい川で何をするというのか。
花冷えや脳の写真のはずかしく 岡野泰輔
ただの写真ではありますが、脳だけに人に知られたくない思いが写っているようで、はずかしいのでありましょう。「花冷え」がこれまた絶妙によいです。先生に「あなた、だいぶ俳句に冒されてますな」とか言われそう。
世の中に三月十日静かに来る 岡野泰輔
三月十日といえば、奉天陥落を祝した陸軍記念日を暗転させる東京大空襲の日だったわけですが、いまや三月十一日の前日に過ぎない状況になってしまいました。これから来る三月十日は、どんな日なのか。あの震災以降に作られた句なのか定かではないのですが、印象深い句です。
人日の右脳左脳のありどころ ゆかり
2012年1月5日木曜日
脱ぐ
セーターの脱いだかたちがすでに負け 岡野泰輔
「かたち」がなんとも可笑しいです。脱いだセーターにふくらみやくびれがそのまま匂い立つように保存されていないと、この人は許せないのです。こんな人に負けだと言われるのは、ちょっとくやしい気がします。
さくら鯛脱いでしまえばそれほどでも 岡野泰輔
失礼な句です。きっと脱ぐ前は「さくら色したきみが欲しいよ~」と歌っていたのです。
目の前の水着は水を脱ぐところ 岡野泰輔
水を上がってからが水着の本領で、舐めるような視線にさらされるのだとしたら、まさに「水を脱ぐ」であって、脱ぐことに他ならないのです。これはすばらしい句です。
ぜんぶ脱ぎ氷山の一角とする ゆかり
「かたち」がなんとも可笑しいです。脱いだセーターにふくらみやくびれがそのまま匂い立つように保存されていないと、この人は許せないのです。こんな人に負けだと言われるのは、ちょっとくやしい気がします。
さくら鯛脱いでしまえばそれほどでも 岡野泰輔
失礼な句です。きっと脱ぐ前は「さくら色したきみが欲しいよ~」と歌っていたのです。
目の前の水着は水を脱ぐところ 岡野泰輔
水を上がってからが水着の本領で、舐めるような視線にさらされるのだとしたら、まさに「水を脱ぐ」であって、脱ぐことに他ならないのです。これはすばらしい句です。
ぜんぶ脱ぎ氷山の一角とする ゆかり
2012年1月4日水曜日
とても蛇
『アビーロード』のA面の終わりといえば、She's so heavyですが、じっさいのところ、岡野泰輔さんの蛇の句はきらきらしています。
いちばんのきれいなときを蛇でいる 岡野泰輔
蛇だって発情期には婚姻色に彩られるのでありましょうが、そういうことではなくて、ひとつの生命体の輪廻の中で、いちばんのきれいなときが蛇って、そうとうかなしい性です。ほとんどひらがなの中に一文字だけ「蛇」が漢字という、表記への配慮がこの句を確かなものにしています。
左手は他人のはじまり蛇穴を 岡野泰輔
「左手は他人のはじまり」と不如意を嘆くようでいて、この季語の斡旋はなにかしら淫靡な悦びのはじまりのようにも思われます。
蛇眠るうへのあたりで毛糸編む ゆかり
いちばんのきれいなときを蛇でいる 岡野泰輔
蛇だって発情期には婚姻色に彩られるのでありましょうが、そういうことではなくて、ひとつの生命体の輪廻の中で、いちばんのきれいなときが蛇って、そうとうかなしい性です。ほとんどひらがなの中に一文字だけ「蛇」が漢字という、表記への配慮がこの句を確かなものにしています。
左手は他人のはじまり蛇穴を 岡野泰輔
「左手は他人のはじまり」と不如意を嘆くようでいて、この季語の斡旋はなにかしら淫靡な悦びのはじまりのようにも思われます。
蛇眠るうへのあたりで毛糸編む ゆかり
2012年1月3日火曜日
何かの間違いで音楽を演奏する不思議
ピアニスト首深く曲げ静かなふきあげ 岡野泰輔
ビル・エヴァンスの沈潜するバラードを思います。季語なのかエモーションのほとばしりなのかを限定しないように注意深く語を選んだであろう、破調の「ふきあげ」がじつによいです。
秋の夜の指揮者の頭ずーっと観る 岡野泰輔
前句もそうなのですが、人間のかたちをした人が何かの間違いで音楽を演奏する能力を持っている不思議を、この句も濃厚に感じさせます。
蔦かずら引けば声出るピアニスト 岡野泰輔
そんな演奏家を山に連れ出し、「弾けば音出る」ではなく「引けば声出る」としてしまったわけですが、根底には演奏家であることへの不思議が鳴り響いていることでしょう。
音楽で食べようなんて思うな蚊 岡野泰輔
「思うなかれ」であればなんとも照れくさくもある説教になってしまうのですが、この突然の切断。まるで『アビーロード』のA面の終わりではないです蚊。
お別れは下校のあれを春隣 ゆかり
ビル・エヴァンスの沈潜するバラードを思います。季語なのかエモーションのほとばしりなのかを限定しないように注意深く語を選んだであろう、破調の「ふきあげ」がじつによいです。
秋の夜の指揮者の頭ずーっと観る 岡野泰輔
前句もそうなのですが、人間のかたちをした人が何かの間違いで音楽を演奏する能力を持っている不思議を、この句も濃厚に感じさせます。
蔦かずら引けば声出るピアニスト 岡野泰輔
そんな演奏家を山に連れ出し、「弾けば音出る」ではなく「引けば声出る」としてしまったわけですが、根底には演奏家であることへの不思議が鳴り響いていることでしょう。
音楽で食べようなんて思うな蚊 岡野泰輔
「思うなかれ」であればなんとも照れくさくもある説教になってしまうのですが、この突然の切断。まるで『アビーロード』のA面の終わりではないです蚊。
お別れは下校のあれを春隣 ゆかり
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