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2021年11月16日火曜日

七吟歌仙 広げたるの巻

   広げたる翼あかるき千草かな     ぽぽな

    空耳のごと白き虫の音       ゆかり

   月明にかざすシャンパンはにかんで  ゆらぎ

    スクリーンにはをどる踊り字    佳世乃

   席立ちて席にハンカチ残りたり      令

    百合一輪に礼状を添へ       うさぎ

ウ  暗号をマングローブの森に解く     由季

    鳥になつたり魚になつたり       な

   ゆつくりと鼻から吸つて鼻で吐く     り

    観音様と仰ぐ裸身を          ぎ

   高き日の映る鏡にせかされて       乃

    靴を響かせコサック騎兵        令

   掘りたての人参を手に駆け回り      う

    月も凍るし穴も凍るし         季

   熟睡をぴくりと動く犬の眉        な

    祖母から貰ふ輪ゴム九つ        り

   花万朶帝国陸軍埋蔵金          ぎ

    はたらく船ははるのゆふぐれ      乃

ナオ 大阪に河口干潟の残されて        令

    猫の飛び乗るこいさんの膝       う

   眼鏡かけ憎まれ役で押し通す       季

    同窓会にひとり足りない        乃

   消印ははつなつのニューカレドニア    な

    ポストコロニアリズム論考       ぎ

   いちまいの付箋を剥す昼深く       う

    送信あとは掃除機を連れ        り

   寝室の夫とのあひに誰かゐる       令

    方程式は冷たく甘く          季

   月光の届き始める楽器店         乃

    エディーの方が先に逝く秋       な

ナウ 野は山へ移り疎らに茨の実        ぎ

    双子同時に霜柱踏む          う

   日の当る場所を空までヒット曲      り

    売家を見て大あくびして        令

   塀を越え虚子庵からの花吹雪       季

    うぐひすもちの餡のつややか      乃


起首:2021年10月12日(火)

満尾:2021年11月16日(火)

捌き:三島ゆかり

2021年9月9日木曜日

七吟歌仙 ごまだれの巻

   ごまだれの冷やし中華や退学す    なな

    長き行列続く片蔭        ゆかり

   マラソンが見たさに風を押しのけて  祥貴

    エンタシスよりケンタウロスが   青猫

   月祀る遺構かさなるうぶすなに    冬泉

    山茱萸の実を摘みとる手籠     酔鳴

ウ  かなかなが奏でる革命のエチュード  鮭児

    少し明るきグラスにウォッカ     な

   電流をあちらのお客様として      り

    いつしよにほとばしるわバリまで   貴

   この雨にしなしなと四肢のアンニュイ  猫

    わが屍をかこむ萍          泉

   中国茶ひらかせてゐて月涼し      鳴

    埋めもどされるモノリスの失禁    児

   縦縞も横縞も魚氷に上る        な

    脱獄犯の模型のどけし        り

   酌み交はす叔父貴の背を花爛々     貴

    地上五センチ彷徨つてみる      猫

ナオ 枯野にて北斎のこと蝌蚪のこと     泉

    不意の雪とて入るドトール      鳴

   じふぶんに煉獄ですよと医者笑んで   児

    四角い文字もすらすらと読み     猫

   美しきスヴェトラーナの太り肉     鳴

    亡命の途に開く襟元         な

   けだるさに点けたテレビのばか笑ひ   貴

    同語反復する君の名は        泉

   辻斬られ入れかはりたる右脳左脳    児

    ところ狭しと管のいろいろ      り

   情火より遠くみなぎる望の月      猫

    神籬立てし小舟冷ややか       鳴

ナウ うつむきと異なる磯菊の傾げ      な

    答へ終えたるのちの道行       貴

   甍落ち箔落ち星を踏むたびに      泉

    井戸の深さを返る水音        り

   黒髪に染むをとつひの嘘へ花      児

    かすみの海を馬の駆けゆく      猫


起首:2021年 8月 2日(月)

満尾:2021年 9月 9日(木)

裁き:ゆかり

2021年7月7日水曜日

脇起し七吟歌仙 梅の実の巻

    梅の実やかなしき肌のやうなもの   ゆかりり

    掌にあればその遠きあまおと       聡

   マスタング疾し輪郭を掻き消して     祥貴

    すすきすすきと誘はれてをり      火尖

   安全な真顔で月を見ていたい       りゑ

    もの確かむる虫の叢          銀河

ウ  がうがうと紙吐き続く輪転機       黒兎

    トースト焦がすエプロンのきみ    ゆかり

   ジューサーで絞りきれない思慕しつぽり   聡

    仏と成してローラ・ビーチへ       貴

   入国の合唱団は一人欠け          尖

    竹冠の名字が似合ふ           ゑ

   杖笠に矢立忘るな寒の月          河

    留守居の猫の額なでつつ         兎

   着々と世界征服進みをり          り

    のの字浄土やみちのくの野辺       聡

   寺山のむくんだ頬に花ひとひら       貴

    蝶と化さねば剥がれぬ付箋        尖

ナオ パパゲーノ裏原宿で待ち合はせ       ゑ

    浮世の果てと知りて矢を射る       河

   君の名で三度ログインしくじりて      兎

    立ち上がらない金曜の朝         り

   ケトルベルだんだん父に似てきたね     貴

    抽斗で割る温泉卵            ゑ

   ポケットの接骨院の回数券         兎

    樹海へ入るバスは方舟          聡

   暗がりに目覚めるものと眠るもの      り

    蕣ひらく音のかすかに          河

   天網の匂ひのしない昼の月         尖

    万のレンズにひかる小芋煮        貴

ナウ 冷たさに今すぐ閉じる二枚貝        ゑ

    夢に出で来し雪の風景          河

   十字路で解釈論でぶつかりて        聡

    おのれを写すコンビニの窓        り

   知らぬ間に増えし子の来て花の雲      兎

    やむことのなきふらここの揺れ      尖


起首:2021年06月22日(火)

満尾:2021年07月07日(水)

捌き:三島ゆかり


2021年5月1日土曜日

七吟歌仙 桜餅の巻

   思ひ出すための一日や桜餅      西生

    やがてひかりにとける囀      三島

   風船の轍をのこす雲もなし      秀雄

    抜かれぬやうに立ち漕ぎをして   なな

   衛星の影よぎり行く大き月      今朝

    留守番電話に蜩のこゑ      れいこ

ウ  踊り出す案山子次世代ミュージック  茱萸

    硝子の靴の踵を踏んで        生

   砕け散る糸し糸しと言ふ心       島

    木質化する君の俤          雄

   飲み切つてしまふスコッチウヰスキー  な

    心臓三つ脳は九つ          朝

   新しいパパと見てゐる夏の月      こ

    水中眼鏡外さぬままに        萸

   透きとほる巨きな傘の下にゐて     生

    臨終を待つたそがれの国       島

   青い鼻血が逆巻く川の花明り      雄

    ゆつくり啜る椀より浅蜊       な

ナオ ひたすらにおむつを換へて春暮るゝ   朝

    ござるござると村の長老       こ

   アカウント端末ごとに使ひ分け     萸

    時給の順に送る履歴書        生

   煤逃の初体験は十五歳         島

    をしを商鞅高次構造         雄

   立ち読みの本にみごとな染みをつけ   な

    定刻に発つ深夜特急         朝

   助手席を退いてくれない轡虫      こ

    乃木忌終日ラジオを聴いて      萸

   砂浜をムーンライトの尖りをる     な

    作りものめくカクテルの青      島

ナウ 鳥籠の耳にしづかな小米雪       雄

    新聞王の捨てられぬ橇        生

   セントラル・パークを抜けて蚤の市   朝

    海を夢見て自鳴琴鳴る        こ

   追ふやうに逃れるやうに花筏      萸

    つばめ飛び交ふ地図要らぬ町     な


起首:2021年04月12日(火)

満尾:2021年05月01日(水)

捌き:三島ゆかり

2021年2月13日土曜日

九吟歌仙 よく薫るの巻

   よく薫る女礼者の名刺かな     酔鳴

    末広がりにゆづりはの青    ゆかり

   その日また船尾に旗のはためいて  天気

    きんとん雲で合つてゐるつけ    七

   飲みすすむ桂男もめでる酒     遊凪

    白露といふうつくしき嘘     青猫

ウ  からつぽの郵便受けは行く秋の   夜景

    ダリの画室にとろける時計    月犬

   野良犬の眉間の先にぶら下がり  けんじ

    埋蔵金を打つ検土杖        鳴

   変更を余儀なくされる海開き     り

    月を肴の見越しの葭簀       気

   足跡をたうたう夢に埋めたり     七

    ジーンズ似合ふ三つ編みのひと   凪

   さて今日は霊長類になりすます    猫

    雨水の城に隠す天秤        景

   ゆさゆさと大枝に揺れ花の夜     犬

    遠くに響く虫出しの雷       じ

ナオ 五丁目の歯医者はすぐに抜きたがり  鳴

    まだ生きてゐる闇の神経      り

   秒読みに入る枯野の発射台      気

    混沌屯画像乱るる         七

   さそり座の彼氏を追つてハワイまで  凪

    ジュラ紀の魚となるまで泳ぐ    猫

   燃ゆる木の顛末を説く閑古鳥     景

    廃墟めきたる場末のホテル     犬

   テーブルに伏せ置かれたる請求書   じ

    放電しきるタニマチの袖      鳴

   月の浜靴美しく並べたり       七

    芒の波へまたひとり消え      気

ナウ 銀杏散る午後を開拓史の講義     り

    株式相場上下運動         凪

   旋律は雪原を越え戸口へと      犬

    羊たちみな声がはりして      景

   あかつきの足裏をそつと花の塵    猫

    始発の動く風光る街        じ


起首:2021年 1月 5日(火)

満尾:2021年 2月13日(土)

捌き:ゆかり

2020年12月17日木曜日

七吟歌仙 音楽の巻

   音楽のしみだしてくる焚火かな   りゑ

    雪ともまがふ白きかなしみ   ゆかり

   パラフィンは三角形に畳まれて   苑を

    若葉風ごと食らふドーナツ  くらげを

   月光の集まつてゐる鬼の牙      恵

    ひよどり鳴いて献血車来る   らくだ

ウ  うすく濃く葡萄酒醸す闇の奧    冬泉

    戦乙女の巻髪を梳く        ゑ

   上目にて見据ゑ鏡に下ろす布     り

    どこでもドアの開く音がする    苑

   流刑地を寒濤しぶく果の果      く

    ミックスジュース一気に飲みて   恵

   宝湯の口開けはみな顔なじみ     だ

    火山をのぞむ月涼しかれ      泉

   思い出のありとはなしに遠眼鏡    ゑ

    ぶんぶん回すマイクスタンド    り

   散り急ぐ花は阿修羅の姿して     苑

    むなしく揺るる雨後のふらここ   く

ナオ 新入生代表として立つクララ     恵

    四ヶ国語を操るといふ       だ

   テーブルに塔のカードがめくられて  泉

    つづら折りなる集積回路      ゑ

   手袋をしながら無駄口を叩く     り

    時とはなにか言うてみたまへ    苑

   中腹にアンモナイトの化石出て    く

    三兄弟は醤油塗れに        恵

   銚子まで来ても残暑の揺るぎなし   だ

    分銅減らす秋の天秤        泉

   名月のどこかに署名あるといふ    ゑ

    大道具からくべる打ち上げ     り

ナウ 泉には弾けるやうな笑ひ声      苑

    互ひ違ひにジェラートの色     く

   一瞬で競歩の選手通り過ぐ      恵

    足の裏から冴返りたる       だ

   ひきこもる花をしとねの九十九髪   泉

    東風に誘はれ深むチェロの音    く


起首:2020年11月29日(日)

満尾:2020年12月17日(木)

捌き:ゆかり


2020年10月28日水曜日

九吟百韻 鯊天の巻

   鯊天の朱字に惹かれて引戸かな とつかあ太

    黙々と呑む関取の背       ゆかり

   犬が行き荷車が行き秋深み      媚庵

    通りすがりにふれる楠       桐子

   羚羊ら裸婦の如きに怠けたる     四羽

    ぐるぐる回る磁石の針が     ゆらぎ

   指し示す立待月の三陰交       葉月

    十日の菊を出窓に飾る        槐

ウ  色鳥に紛れ散髪してゐたり      火尖

    アニメ声なるラジオDJ       太

   大陸の帽子でガラス越しに笑む     り

    復員兵は瀬島龍三          庵

   満水のダム湖にねむる綴じ暦      子

    陸の蛸ならジルバが得意       羽

   枕絵の女となつてまなこ閉づ      ぎ

    甘き誘ひの開く口元         月

   ガルウイングのベンツの抱く朧月    槐

    野焼き帰りの貌の男等        尖

   花守と呼ばるるにまだ若すぎて     太

    戦を知らぬ長き髪の毛        り

   噴く汗にざくざくと行く羅生門     庵

    顎までずらすガーゼのマスク     子

二オ 大統領咳のはづみにポチッとな     羽

    「いいね」ひとつに怯む総書記    ぎ

   兄上と呼ばれ背筋を駆けるもの     月

    ろくろつ首の抜衣紋へと       槐

   折紙の余りに折紙の匂ひ        尖

    風やはらかく揺るるカーテン     太

   木洩れ日に窓といふ窓開け放ち     り

    三年生が吹くリコーダー       庵

   ありふれた写真を流れ出るボレロ    子

    裸足のままで走る国道        羽

   御百度のさなかに猿が乱入し      ぎ

    バッハ会長夢見るやうに       月

   聖火台に聖火こほらせ月のあを     槐

    皆がやさしく磨く猟銃        尖

二ウ 均等に切り分くることなら得意     太

    巴里から届く手紙数通        り

   黄砂降り不破写真館閉館す       庵

    蒲公英色の初代ビートル       子

   丸眼鏡拭いて悪役春惜しむ       羽

    やがて薬の効いてくる頃       ぎ

   身に着ける学校指定の網タイツ     月

    負けてばかりのジュースじやんけん  槐

   月もろき夜のプールに忍び込み     尖

    尾崎豊は友の後輩          太

   恐るべきアンチエージングの秘術    り

    ステンドグラスごしののどけさ    庵

   花ひとひら水のひかりへためらはず   子

    風炎の日の谷の泣き声        羽

三オ 誰ぞやの服の掛けある落し角      太

    鉄の掟と鋼の心           月

   母に憑くおキツネ様を燻し出し     庵

    以後千年は水を打つべし       尖

   さざれ石巌と為らずタピオカに     羽

    右に左にかはす急坂         り

   疎ましき求婚者たち髯の伸び      ぎ

    実習生の握るカミソリ        子

   かほの傷かくしつつゆく朝帰り     槐

    チャージ不足に開かぬ改札      太

   またしても取り残されて涼あらた    月

    運動会のピストルの音        庵

   月といふ響きは硬き天地に       尖

    ソイレントグリーンで乾杯      羽

三ウ 近未来小説よりも長生きす       り

    南柯の残夢蟻の巣に蟻        ぎ

   一人また一人と欠ける列にゐる     子

    ボーイズラブも老け専にして     槐

   親方に手とり教はるかんな掛け     太

    釘を使はず柱を組んで        月

   切妻の屋根の彼方に鳥帰る       庵

    穀雨の紙を選る鳩居堂        尖

   メーデーの月が綺麗ですね社長     羽

    元の名で呼ぶ酔ひの横丁       り

   竹輪麩がおでんにないと不機嫌に    ぎ

    念のため遠ざけるデンモク      子

   花の夜をKEEP OUTのテープの黄 槐

    駆除班を待つすゞめ蜂の巣      太

ナオ 風船を馬鹿正直に追跡す        月

    ハーポ・マルクス笑ひとまらず    庵

   現役のブラウン管の虹の痕       尖

    シルクロードの蛇に涙は       羽

   神々の民そしてまた神の民       り

    黄昏てゆくグローバリズム      ぎ

   いち早くユーチューバーになる詩人   子

    姿は見えず猫の鳴きたり       槐

   吸殻のあれよと貯まる駐車場      太

    六道辿り五衰するひと        月

   小雨降る午すぎの野に野菊咲く     庵

    ゆんゆと撓む蜻蛉の空        尖

   母さんは帰つて来ない昼の月      羽

    同級生の用を足す音         り

ナウ 焼却炉に雪は吹き込む燃え上がる    ぎ

    ひだり手ばかり失くす手袋      子

   ポケットにつきたるままのしつけ糸   槐

    何を買ふにも妻の見立てで      太

   納豆を練る速度にて世は流れ      月

    占星術師錬金術師          庵

   始まりの違ふ花ざかりの交差      尖

    チヨコレイトと響く永日       羽


起首:2020年 9月24日(木)

満尾:2020年10月28日(水)

捌き:ゆかり


2020年9月21日月曜日

六吟獅子吼 囮の鳥の巻

   日がうごく囮の鳥のかたむきに     トキ

    曼珠沙華咲く人の世の果て     ゆかり

   からすうり持つ迷ひ子に懐かれし    鯖男

    オルゴール鳴り続く有明      あんこ


   夏痩の野球評論家の語る        知昭

    パイナップルの芯の抜き方     れいこ

   どこまでも入れ子になつてゐるマスク   キ

    すぐ行かないと凍つちやふから     男


   終電に忘れてしまふズブロッカ      あ

    般若心経口ずさみたる         昭

   北斎の波かと思ふ伯母がゐて       れ

    オーロラとして転送さるる       キ

   松過ぎてモデムの音を夢に聞く      り

    二十年ほど笑つてすごし        男

   花冷の鎖骨に揺るるターコイズ      あ

    名残の雪のすぐ消ゆる白        昭

   たまごぼうろのふはとおぼろ夜      れ


起首:2020年 9月14日(月)

満尾:2020年 9月21日(月)

捌き:ゆかり

2020年8月26日水曜日

七吟歌仙 尾長来ての巻

   尾長来て人を見下ろす残暑かな    晶子

    誰も知らない色のなき風     ゆかり

   夕月の声はひゆうひゆう出づるらん  茱萸

    メタセコイアの湖の道        令

   遠雷に分別らしき犬の顔      小奈生

    ルーシー語るフェミニズム論    由季

ウ  神無月襖開ければオノ・ヨーコ    玉簾

    火をつけたのはあんたぢやないの   子

   吹き消せぬほどのらふそく立ち並び   り

    密に集ひて百物語          萸

   怖いもの見たさのやうに好きになり   令

    愛のかたちはアシンメトリー     生

   豆雛の並べられたる違ひ棚       季

    漆器に積もる黄砂払ひて       簾

   龍天に登り易げな雲に月        子

    首都高のごと蝌蚪の紐伸び      り

   廃線をたぐり寄せれば花の宴      萸

    記憶の底のペンギン村に       令

ナオ 飛躍的認知の歪みかもしれず      生

    階段下りるだまし絵の中       季

   トリッパのトマト煮のあるレストラン  簾

    諜報部員のグレーのコート      子

   解読に時間のかかる懸想文       り

    地層の奥の衣ずれを追ふ       萸

   根の国に通ずるための井戸替を     令

    蜘蛛の巣払ふ葬儀看板        生

   配達と掛持ちをするアルバイト     季

    遠回りしてこほろぎを聴く      簾

   ゆつくりと地球の昇る月の海      子

    億千万の曼珠沙華燃ゆ        り

ナウ 歌姫の生命線は長く伸び        萸

    母郷はるかに雪の山脈        令

   ほろ酔ひの温泉卓球ほどほどに     生

    弥勒菩薩の手首の角度        季

   猫の背に上着に連れて帰る花      簾

    あをあをと積む蓬餅の香       子


起首:2020年 8月10日(月)

満尾:2020年 8月26日(水)

捌き:ゆかり

2020年6月20日土曜日

七吟歌仙 恢復の巻

   恢復の友の笑顔や薔薇垣根      月犬

    髪の長さが及ぶ蜘蛛の囲     ゆかり

   潮の香と日暮が軒に満ちてきて    苑を

    そろりそろりと硯を洗ふ     らくだ

   有明はゆふべの夢の行き止まり   ゆらぎ

    案山子のシャツの破けたる襟    なな

ウ  美術室繁忙文化祭間近        なむ

    浮浪雲めく烟草のけむり       犬

   お代はりと桃井かおりの声色で     り

    豊葦原をいちにち歩く        を

   五本指ソックスどこも在庫なし     だ

    斎戒沐浴能面を打つ         ぎ

      だんだんと冬月硬くなつてゆき     な

    火鉢跨いだまんま動けず       む

   暗がりで魔女が煎じる惚れ薬      犬

    呪ひにも似て片思ひ濃し       り

   薄墨の花の吐息を漏らすらむ      を

    紙風船はたたまれてをり       だ

ナオ 逃げ水をキックボードで追ふ子ども   ぎ

    母の名前を繰り返し言ふ       な

   焼跡のかしこにしろきもの噴いて    む

    地獄の釜の蓋すこし開く       犬

   舌おほき男をずつと待つてゐる     り

    小劇場の浮かぶ宵闇         を

   スカウトの名刺もらひて有頂天     だ

    霙まじりの滝壺に入る        ぎ

   NTTドコモのスマホ解約し      な

    色鳥のあの一羽捨てます       む

   分校の窓白白と月あかり        犬

    どしどし集ふ夜寒のけもの      り

ナウ 吹けよ風呼べよ嵐と咆哮す       を

    テンポを決めるドラムスティック   だ

   半生は舟を持たないままに過ぎ     ぎ

    空を読む目にあをの滲みて      な

   地上波の涯をはらはら花の雨      む

    燕来る日のただいまのこゑ      犬


起首:2020年 6月 5日(金)

満尾:2020年 6月20日(土)

捌き:ゆかり

2020年4月15日水曜日

五吟歌仙 春分の巻

   春分の引き摺つて出す木馬かな     恵

    建替近き海棠の家        ゆかり

   さへづりの筑波山麓みたすらん    酔鳴

    杖をたよりに登る坂道       媚庵

   月あかり手紙の束のほどかれる    桐子

    霧を引き裂き山羊の鳴き声      恵

ウ  長き夜を銘々皿のたりなくて      り

    ゴディバのトリュフのせる舌先    鳴

   パンの会例会ひらく竜土軒       庵

    切断される赤い鉄骨         子

   飛び越えた火が褌に燃え移り      恵

    綺麗な涙色に鎮まる         り

   青年の貴種流離めく夏の月       鳴

    RPG今日はここまで        庵

   コメディアンの訃報ながれるツイッター 子

    不法滞在なう花莚          恵

   びびびびと進化してゐる残る鴨     り

    タワークレーン風焔に揺れ      鳴

ナオ メルカリに手塚治虫の初版本      庵

    やがて致死量超えるささやき     子

   紅茶葉のたつぷり開く雪の夜は     恵

    模様の違ふ脳の映像         り

   イスパニア式決闘を持ちかけて     鳴

    下がり続ける株式市況        庵

   パレードの虹ながれゆく大通り     子

    日焼けの染みのなかなか消えず    恵

   やや古きヘアカタログをぱらぱらと   り

    サラダ館より届く桃の実       鳴

   月光を浴びて見知らぬ町を行く     庵

    強さうな名の新酒一気に       子

ナウ ひらがなの滑りでてくる細き筆     恵

    朱も鮮やかに木漏れ日の下      り

   帆船の三声高き登檣礼         鳴

    書棚に古き旅行記探す        庵

   花の雨おでこを窓にくつつけて     子

    匂ひ豊かに開くはまぐり       恵


起首:2020年 3月20日(金)

満尾:2020年 4月15日(水)

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2020年4月11日土曜日

六吟獅子吼 春夕焼の巻

何事があれど美し春夕焼       ふう

 落花の径を犬のじゃれあい    ゆかり

妹乗せて姉よふらここゆるり押せ    う

 都踊は山のあなたに        りゑ


逢いたいとぶんぶん飛んでやってくる 遊凪

 香水臭き駅前広場         西生

滴々と喫茶店主首傾げつつ   珈琲と俳句

 クレヨンで描く赤橋の川       凪


ひやおろし汲みかわそうぜ鬼の子と   ゑ

 関取好む甘いカフェオレ       句

三日月は東と西を間違えて       生

 蕪村の軸の鑑定をせん        う

どろどろと時劫の音の続きおり     り

 東尋坊も氷ってしまう        ゑ

無言でも目配せで買う宝くじ      凪

 コピ・ルアックを大盤振舞い     句

そして消ゆ雛人形も国境も       生


起首:2020年 4月 7日(火)

満尾:2020年 4月11日(土)

捌き:ゆかり

2020年2月26日水曜日

脇起し五吟歌仙 直線の巻

   直線を鱗と思ふ紀元節      ゆかりり

    鄙の入江の香る壺焼         聡

   うらうらと雲を欄間に刳りぬいて  ふもと

    僧侶と祖母の四方山話     瓦すずめ

   月影の沁みるばかりの大谷石      聡

    団栗太る城下公園          と

ウ  馬の目に遊ぶ炎のさやかなり   抹茶金魚

    風にはためく元カレの背     ゆかり

   駅前に恋のギターを弾き続け      め

    冬めく指に星影を生む        魚

   牛乳をこぼしてからの四畳半      り

    アッフォガードに溶ける短夜     聡

   辺獄の月の涼しさかくあらむ      と

    水晶玉の隠さるる地下        め

   空耳は昨日の息の青さして       魚

    卒業式の練習の午後         り

   花ふぶく吹奏楽の熄みしあとも     聡

    鱒いただけば斑のうつくしき     と

ナオ 安宿に鼻の大きな客ばかり       め

    秒針のなき時計の静止        魚

   電流を集め未来へ行き過ぎる      り

    無人カーではまだ人を轢く      聡

   吊るされた男のほかはみんな嘘     と

    夏雲が笑む選挙ポスター       め

   短夜の鏡の中の冷気美し        魚

    ハイレゾで聴くオンドマルトノ    り

   いつのまにスイングし居りすすきの穂  聡

    二百十日を前の買ひ出し       と

   浮浪児が柘榴を眠たげに齧る      め

    椅子を積み上げ飛ぶ後の月      魚

ナウ 歩くたびさざ波が消す下駄の跡     り

    スロージンでは失せぬおもかげ    聡

   きみの名できみを呼ぶたび遠くなる   と

    名残の雪に猫の尾は揺れ       め

   一塊のさざめきとして花の雲      魚

    海でつながる春の国々        り


起首:2020年 2月11日(火)

満尾:2020年 2月26日(水)

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2020年2月20日木曜日

七吟歌仙 音階の巻

   音階の下りてゆきたる寒暮かな    あんこ

    左手が打つ底冷えの底       ゆかり

   島影のやうやう白む舷に      くらげを

    翼ふるはす名も知らぬ鳥       れい

   月めざし友とジョギングするコース   遊凪

    早稲の香ゆるく揺れ淀みをり      梓

ウ  円墳のやうに盛られし菊膾       陽子

    やはらかき目の誘ふ次の間       こ

   かたかたと百の端末動きをり       り

    順に奥より始まる脱皮         を

   新月の梔子の香と大麻の香        い

    結んだ髪の浴衣連れにて        凪

   ここへきて遺書がどうのと揉めてゐる   梓

    シルデナフィルを過剰摂取し      子

   冴返る山と思へば君の腹         こ

    うす霞みをる注連縄と垂        り

   花すでに此の世の崎を昏うして      を

    バスは走れり街に帰らむ        い

ナオ 見学は灘界隈の酒の蔵          凪

    するする喉を滑る蘭鋳         梓

   国芳の化け猫つひに出てきたり      子

    果てなく続く闇の板塀         こ

   べからずの鳥居とべしのおみくじと    り

    取替へてみんふた心もて        を

   男装の姫に恋する内侍たち        い

    佳人の園に響く鈴の音         凪

   野に萩はこぼれて重き日の残り      梓

    バーレッスンの手すり冷ややか     子

   林檎食む同じ口もて秘密告ぐ       こ

    昼月透ける鰯雲なり          り

ナウ 旅いつもつづきのやうに始まりて     を

    降りつむ雪に記憶蔵はる        い

   パソコンのメモリ容量拡大し       凪

    しやつくりのまま過ごす閏日      梓

   豊かなる胸を隠せし花ごろも       子

    春夕焼へ深くお辞儀を         こ


起首:2020年 1月24日(金)

満尾:2020年 2月20日(木)

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2019年12月20日金曜日

七吟歌仙 笹舟の巻

   笹舟のゆくへや今朝の冬野川    冬泉
    子より大きな息白き犬     ゆかり
   サーカスの始まり告げる声のして ぽぽな
    笑顔を保つ軟体の美女      由季
   月淡くしてコルカタの道をゆく   夜景
    霧を換喩とまちがへながら    秀雄
ウ  冷まじきものに国立競技場     苑を
    聖母子像に火薬匂へり       泉
   はぐれたら外人墓地で落合はん    り
    薄き耳朶やはらかく噛み      な
   パン種を伸ばし捩ぢるもモテ仕草   季
    アンモナイトを夢に置き去り    景
   のむ水の腹の地層を疾くとほる    雄
    逆三角は正義のしるし       を
   麦踏んで定家が仰ぐ明月に      泉
    仮名遣ひよきうぐひすのゐて    り
   姿見の奥の奥まで花盛        な
    テクマクマヤコン楊貴妃になれ   季
ナオ 片恋の涙を獏に舐めさせて      景
    切手溢るる電話ボックス      雄
   空色の硝子の床の下は街       を
    終末旅行はレーション持つて    泉
   目が合へば隠るる二つ結ひ揺るる   り
    プールサイドは午後のきらめき   な
   牧神のひとの部分が凍えゐる     季
    巨大な熊が高く跳ぶイヴ      景
   星間の点線すでにうすけむり     雄
    月宮殿に箏を奏でて        を
   波斯青磁烏扇の実をこぼす      泉
    酒乱の父の舐める柚子味噌     り
ナウ 谷合ひの里しらじらと明け初めて   な
    脈の速さの雪はふりつむ      景
   大鍋にぼるしちの湯気立ち昇り     を
    初点前には銀鼠を着て       泉
   打ち揃ふ堺商人花の宴        季
    帆のはためきの音のうららか    雄


起首:2019年12月 1日(日)
満尾:2019年12月20日(金)
捌き:ゆかり

2019年10月28日月曜日

七吟歌仙 韃靼人の巻

   長き夜の韃靼人の踊りかな     りゑ
    後の月にはのちのしづかさ    三島
   とりどりに拾ふ橡の実などありて  詠犬
    私語の聞こえる教壇にたつ    ハク
   それつぽく髪を乱して白手套    西生
    風力計も折れんばかりに     天気
ウ  欠航を告げられてゐる不倫行    真人
    袖すり合ふも蛸壺の縁       ゑ
   暗がりに眠る天文科学館       島
    いちご畑にジョン・レノン立つ   犬
   Dm-E-C-Eと弾きつづけ     ク
    だんだんずれるネクタイの柄    生
   縊死の木の下に始まる名推理     気
    力学を説く前歯欠けたる      人
   トム猫がジェリーを攫ふ月朧     ゑ
    知らない町を歩くお彼岸      島
   花冷えの永楽銭の穴四角       犬
    聞かず顔にて長煙管とり      ク
ナオ 土曜日の綺麗な靴の逃亡者      生
    グエンカオキの曾孫と名乗る    気
   怪しげな投資顧問の事務所にて    人
    ゼムクリップは炎の匂ひ      ゑ
   手作りの詩集の並ぶ棚二段      島
    インスタグラムに朗読の声       犬
   新郎は落研にゐたこともあり     ク
    首を振るたび違ふ横顔       生
   路地裏を鈴の音よぎる今朝の秋    気
    暑中見舞を出しそびれたる     人
   宙返りして見る月も丸かつた     ゑ
    崩れ簗ある三半規管        島
ナウ 中年の独り言聞く夜の坂       犬
    酒のにほひが雪を降らせる     ク
   人柄で保たれてゐる鯛焼屋      生
    瀬戸内海を航(わた)る佐保姫   気
   水軍の裔ともどもに花の宴      人
    風船乗りは西へ東へ        ゑ


起首:2019年10月13日(日)
満尾:2019年10月28日(月)

2019年10月27日日曜日

七吟歌仙 自然薯の巻

   自然薯の自我肥大たる湿度かな    なむ
    生きて腸まで届く山かけ     ゆかり
   満月を横切る貨車は音たてて    れいこ
    ページの焼けた擬声語辞典      槇
   ポラロイドカメラが彼をひらきだす  トキ
    雲形定規に物語あり        洋子
ウ  眉太く描いて待ちをる鶴女房      槐
    見るなと云へど閨の特権       む
   入道のこんなところに手が墨が     り
    天守閣から下す釣り糸        こ
   えきそばに芒種の月をトッピング    槇
    つゆの向うへ平泳ぎする       キ
   手も足も銀紙のやう夢のやう      子
    薄氷を踏む新品の靴         槐
   ゆかしくもなにやら蕗の薹立ちて    む
    三十路つどへる午後ののどけさ    り
   大阪のおつちやんたちと花の下     こ
    胸ポケットに仁丹のある       槇
ナオ 凍て星の粒のひとつをJAXA指す   キ
    ブラックホールといふ叙情詩     子
   約束の二時にどこでもドアの前     槐
    いやだおとなになりかけてゐる    む
   つぎつぎに猫が木となる猫の森     り
    つんつんしたり丸くなつたり     こ
   モヒカンをおつ立てたまま死ぬつもり  槇
    等身大のパンが焼かれて       キ
   なま肉に塩胡椒ふるタイミング     子
    CMあけてすいつちよの鳴く     槐
   箱に箱積んで月光裡の路肩       む
    木犀の香のことに激しき       り
ナウ 乾杯のグラスにどなたかの指紋     こ
    金田一来て頭を掻いて        槇
   あはゆきの音韻としてあらはるる    キ
    鳥帰る日のふるき木の椅子      子
   花守もふらと加わる花の昼       槐
    羽化する蝶のごとくまどろむ     む


起首:2019年10月16日(水)
満尾:2019年10月27日(日)

2019年9月5日木曜日

七吟歌仙 かなかなの巻

   かなかなや他人の住んでゐる生家    陽子
    釣瓶落しへ豆腐屋の笛       ゆかり
   月光を物理学者のすり抜けて     あんこ
    狂ひ咲きをる病院の庭        媚庵
   洟水に似たる氷柱をへし折らん     銀河
    夜毎天狗は高尾の森で        月犬
ウ  語部の塩辛声のしみわたる        令
    南の島の白き砂浜           子
   たつぷりと塗つてと言ひて横たはり    り
    背骨をなぞるこそばゆき指       こ
   三味線の皮は猫だと教へられ       庵
    蝙蝠の影よぎる月面          河
   書棚には伯爵領といふ句集        犬
    前へ倣へで靴の形に          令
   下萌を駆けてくる半ズボンたち      子
    げにかぐはしき佐保姫のひだ      り
   風光るテラスヘスパゲティふたつ     こ
    文庫の中也詩集に落花         庵
ナオ 早紅葉の湯田温泉の駅舎裏        河
    旅の役者と帰る燕と          犬
   菊酒を唐草文の風呂敷に         令
    押し入れの中息をひそめる       子
   熱戦はタイブレークに突入す       り
    ボールボーイのいつも後ろ手      こ
   賭け金をまた倍にする女連れ       庵
    燃える朱色に香を焚きしめ       河
   老画伯襖に描く龍虎の図         犬
    竹林のなか小径小暗し         令
   月光に関守石のひとつあり        子
    抜き差しならぬままに長き夜      り
ナウ 露霜の鉄扉を押せば軋みたる       こ
    グランドピアノ弾く人の影       庵
   抽斗にハズキルーペを置き忘れ      河
    嗚呼恍惚の牡丹雪降る         犬
   雨傘をレフ板として花万朶        令
    整列の前よぎるてふてふ        子
起首:2019年 8月13日(火)
満尾:2019年 9月 5日(木)
捌き:ゆかり

2019年7月28日日曜日

七吟歌仙 つけて名をの巻

   つけて名を呼ぶことのなき金魚かな   火尖
    レゴの欠片を拾ふ明易       ゆかり
   てつぺんを翔ちたる翼ぶ厚くて    佳世子
    野ねずみひそむ秋草の原      ゆらぎ
   姉妹して月のひかりをすがめたる    鯖男
    口頭試問迫るうそ寒         正博
ウ  滑舌の酷さを買はれ金庫番        七
    カションカションと逃げるロボット   尖
   着ぐるみをはづして鯛焼をもらひ     り
    障子を破る猫の慕し          子
   絶え絶えに声はつづいて鄙の宿      ぎ
    別れの朝のコーヒーにニド       男
   ナオミちやんの足を縛つたまま放つ    博
    ストリ-トビュ-に怪し人影      七
   しわくちやの紙伸しをる朧月       尖
    現代貨幣理論うららか         り
   花衣かぶせ亡骸若返る          子
    ロバのパン屋の歌に反応        ぎ
ナオ 関取のひとりふたりと目を覚ます     男
    雨の匂ひのまじる潮騒         博
   あまやかな夕べを過ぐる舌触り      七
    手のひらぢかに何を書いたの      尖
   心臓へそのまま続く運命線        り
    暗きところにじつと神馬は       子
   旧臘の酔ひに若水沁み渡る        ぎ
    選挙に落ちて枯木みつめる       男
   メンタルのバリアフリーが必要に     博
    白い廊下のどこまでも夢        七
   ジオラマの湾へ月光鉄路へも       尖
    フィリピン沖にふたつ台風       り
ナウ 洪鐘は座禅のかたち紅葉山        子
    鳩サブレーで虫押さへする       ぎ
   めぐりきてドゴール帽につもる雪     男
    修正写真何を消そうか         博
   濃きうすき光と影をあそび花       七
    遠足同士すれ違ひたる         尖


起首:2019年 7月13日(土)
満尾:2019年 7月28日(日)
捌き:ゆかり

2019年6月22日土曜日

七吟歌仙 日傘さしの巻

   日傘さし一個の点となりにけり       茱萸
    遠近法で続く万緑           ゆかり
   地球儀の海のあたりに耳あてて      小奈生
    やがて安らぐしろい神経         四羽
   自転車で遅番に行く月明り         媚庵
    薄原より魔女の飛び立ち          恵
ウ  カプセルに遺骨を詰める暮の秋       桐子
    等身大のベティ・デイヴィス        萸
   値札ある水族館を冷やかして         り
    降れば降るほど逢ひたいと言ふ       生
   夜の土に二人で下りて落書きし        羽
    ヘリコプターがよぎる寒空         庵
   着膨れて左手重きサイコガン         恵
    夜が足りない緞帳の裏           子
   初凪の岬を一周廻る猿            茱
    灯台しろくうららかにして         り
   バザールのベルベル人と花の下        生
    おほきな箱に蝶がびつしり         羽
ナオ モニターに迷彩服のやくみつる        庵
    渋谷スクランブル交差点          恵
   うつすらと火薬匂ひて月涼し         子
    赤い貼絵にいそしむ画伯          萸
   ポルシェとかボリシェヴィキとか走り抜け   り
    微調整する景気判断            生
   裏切の宇宙怪獣やるせなし          羽
    じゃがたら芋を大鍋に煮る         庵
   水澄みて洗濯板の硬き音           恵
    こめかみの奥きつつきの来て        子
   体幹は洞となり果て後の月          萸
    遠めがねにて見やる行くすゑ        り
ナウ しんしんと雪の音聞くカテドラル       生
    二十世紀の冬帽傾ぐ            羽
   蒼穹に輪を描くブルーインパルス       庵
    赤で記せし恋猫の地図           恵
   あしあとにひかり生まれる花の朝       子
    みんな似てゐる四月の子ども        萸

起首:2019年 5月27日(月)
満尾:2019年 6月20日(木)
捌き:ゆかり