2020年8月26日水曜日

七吟歌仙 尾長来ての巻

   尾長来て人を見下ろす残暑かな    晶子

    誰も知らない色のなき風     ゆかり

   夕月の声はひゆうひゆう出づるらん  茱萸

    メタセコイアの湖の道        令

   遠雷に分別らしき犬の顔      小奈生

    ルーシー語るフェミニズム論    由季

ウ  神無月襖開ければオノ・ヨーコ    玉簾

    火をつけたのはあんたぢやないの   子

   吹き消せぬほどのらふそく立ち並び   り

    密に集ひて百物語          萸

   怖いもの見たさのやうに好きになり   令

    愛のかたちはアシンメトリー     生

   豆雛の並べられたる違ひ棚       季

    漆器に積もる黄砂払ひて       簾

   龍天に登り易げな雲に月        子

    首都高のごと蝌蚪の紐伸び      り

   廃線をたぐり寄せれば花の宴      萸

    記憶の底のペンギン村に       令

ナオ 飛躍的認知の歪みかもしれず      生

    階段下りるだまし絵の中       季

   トリッパのトマト煮のあるレストラン  簾

    諜報部員のグレーのコート      子

   解読に時間のかかる懸想文       り

    地層の奥の衣ずれを追ふ       萸

   根の国に通ずるための井戸替を     令

    蜘蛛の巣払ふ葬儀看板        生

   配達と掛持ちをするアルバイト     季

    遠回りしてこほろぎを聴く      簾

   ゆつくりと地球の昇る月の海      子

    億千万の曼珠沙華燃ゆ        り

ナウ 歌姫の生命線は長く伸び        萸

    母郷はるかに雪の山脈        令

   ほろ酔ひの温泉卓球ほどほどに     生

    弥勒菩薩の手首の角度        季

   猫の背に上着に連れて帰る花      簾

    あをあをと積む蓬餅の香       子


起首:2020年 8月10日(月)

満尾:2020年 8月26日(水)

捌き:ゆかり

2020年6月20日土曜日

七吟歌仙 恢復の巻

   恢復の友の笑顔や薔薇垣根      月犬

    髪の長さが及ぶ蜘蛛の囲     ゆかり

   潮の香と日暮が軒に満ちてきて    苑を

    そろりそろりと硯を洗ふ     らくだ

   有明はゆふべの夢の行き止まり   ゆらぎ

    案山子のシャツの破けたる襟    なな

ウ  美術室繁忙文化祭間近        なむ

    浮浪雲めく烟草のけむり       犬

   お代はりと桃井かおりの声色で     り

    豊葦原をいちにち歩く        を

   五本指ソックスどこも在庫なし     だ

    斎戒沐浴能面を打つ         ぎ

      だんだんと冬月硬くなつてゆき     な

    火鉢跨いだまんま動けず       む

   暗がりで魔女が煎じる惚れ薬      犬

    呪ひにも似て片思ひ濃し       り

   薄墨の花の吐息を漏らすらむ      を

    紙風船はたたまれてをり       だ

ナオ 逃げ水をキックボードで追ふ子ども   ぎ

    母の名前を繰り返し言ふ       な

   焼跡のかしこにしろきもの噴いて    む

    地獄の釜の蓋すこし開く       犬

   舌おほき男をずつと待つてゐる     り

    小劇場の浮かぶ宵闇         を

   スカウトの名刺もらひて有頂天     だ

    霙まじりの滝壺に入る        ぎ

   NTTドコモのスマホ解約し      な

    色鳥のあの一羽捨てます       む

   分校の窓白白と月あかり        犬

    どしどし集ふ夜寒のけもの      り

ナウ 吹けよ風呼べよ嵐と咆哮す       を

    テンポを決めるドラムスティック   だ

   半生は舟を持たないままに過ぎ     ぎ

    空を読む目にあをの滲みて      な

   地上波の涯をはらはら花の雨      む

    燕来る日のただいまのこゑ      犬


起首:2020年 6月 5日(金)

満尾:2020年 6月20日(土)

捌き:ゆかり

2020年4月15日水曜日

五吟歌仙 春分の巻

   春分の引き摺つて出す木馬かな     恵

    建替近き海棠の家        ゆかり

   さへづりの筑波山麓みたすらん    酔鳴

    杖をたよりに登る坂道       媚庵

   月あかり手紙の束のほどかれる    桐子

    霧を引き裂き山羊の鳴き声      恵

ウ  長き夜を銘々皿のたりなくて      り

    ゴディバのトリュフのせる舌先    鳴

   パンの会例会ひらく竜土軒       庵

    切断される赤い鉄骨         子

   飛び越えた火が褌に燃え移り      恵

    綺麗な涙色に鎮まる         り

   青年の貴種流離めく夏の月       鳴

    RPG今日はここまで        庵

   コメディアンの訃報ながれるツイッター 子

    不法滞在なう花莚          恵

   びびびびと進化してゐる残る鴨     り

    タワークレーン風焔に揺れ      鳴

ナオ メルカリに手塚治虫の初版本      庵

    やがて致死量超えるささやき     子

   紅茶葉のたつぷり開く雪の夜は     恵

    模様の違ふ脳の映像         り

   イスパニア式決闘を持ちかけて     鳴

    下がり続ける株式市況        庵

   パレードの虹ながれゆく大通り     子

    日焼けの染みのなかなか消えず    恵

   やや古きヘアカタログをぱらぱらと   り

    サラダ館より届く桃の実       鳴

   月光を浴びて見知らぬ町を行く     庵

    強さうな名の新酒一気に       子

ナウ ひらがなの滑りでてくる細き筆     恵

    朱も鮮やかに木漏れ日の下      り

   帆船の三声高き登檣礼         鳴

    書棚に古き旅行記探す        庵

   花の雨おでこを窓にくつつけて     子

    匂ひ豊かに開くはまぐり       恵


起首:2020年 3月20日(金)

満尾:2020年 4月15日(水)

捌き:ゆかり

2020年4月11日土曜日

六吟獅子吼 春夕焼の巻

何事があれど美し春夕焼       ふう

 落花の径を犬のじゃれあい    ゆかり

妹乗せて姉よふらここゆるり押せ    う

 都踊は山のあなたに        りゑ


逢いたいとぶんぶん飛んでやってくる 遊凪

 香水臭き駅前広場         西生

滴々と喫茶店主首傾げつつ   珈琲と俳句

 クレヨンで描く赤橋の川       凪


ひやおろし汲みかわそうぜ鬼の子と   ゑ

 関取好む甘いカフェオレ       句

三日月は東と西を間違えて       生

 蕪村の軸の鑑定をせん        う

どろどろと時劫の音の続きおり     り

 東尋坊も氷ってしまう        ゑ

無言でも目配せで買う宝くじ      凪

 コピ・ルアックを大盤振舞い     句

そして消ゆ雛人形も国境も       生


起首:2020年 4月 7日(火)

満尾:2020年 4月11日(土)

捌き:ゆかり

2020年2月26日水曜日

脇起し五吟歌仙 直線の巻

   直線を鱗と思ふ紀元節      ゆかりり

    鄙の入江の香る壺焼         聡

   うらうらと雲を欄間に刳りぬいて  ふもと

    僧侶と祖母の四方山話     瓦すずめ

   月影の沁みるばかりの大谷石      聡

    団栗太る城下公園          と

ウ  馬の目に遊ぶ炎のさやかなり   抹茶金魚

    風にはためく元カレの背     ゆかり

   駅前に恋のギターを弾き続け      め

    冬めく指に星影を生む        魚

   牛乳をこぼしてからの四畳半      り

    アッフォガードに溶ける短夜     聡

   辺獄の月の涼しさかくあらむ      と

    水晶玉の隠さるる地下        め

   空耳は昨日の息の青さして       魚

    卒業式の練習の午後         り

   花ふぶく吹奏楽の熄みしあとも     聡

    鱒いただけば斑のうつくしき     と

ナオ 安宿に鼻の大きな客ばかり       め

    秒針のなき時計の静止        魚

   電流を集め未来へ行き過ぎる      り

    無人カーではまだ人を轢く      聡

   吊るされた男のほかはみんな嘘     と

    夏雲が笑む選挙ポスター       め

   短夜の鏡の中の冷気美し        魚

    ハイレゾで聴くオンドマルトノ    り

   いつのまにスイングし居りすすきの穂  聡

    二百十日を前の買ひ出し       と

   浮浪児が柘榴を眠たげに齧る      め

    椅子を積み上げ飛ぶ後の月      魚

ナウ 歩くたびさざ波が消す下駄の跡     り

    スロージンでは失せぬおもかげ    聡

   きみの名できみを呼ぶたび遠くなる   と

    名残の雪に猫の尾は揺れ       め

   一塊のさざめきとして花の雲      魚

    海でつながる春の国々        り


起首:2020年 2月11日(火)

満尾:2020年 2月26日(水)

捌き:ゆかり