2021年11月16日火曜日

七吟歌仙 広げたるの巻

   広げたる翼あかるき千草かな     ぽぽな

    空耳のごと白き虫の音       ゆかり

   月明にかざすシャンパンはにかんで  ゆらぎ

    スクリーンにはをどる踊り字    佳世乃

   席立ちて席にハンカチ残りたり      令

    百合一輪に礼状を添へ       うさぎ

ウ  暗号をマングローブの森に解く     由季

    鳥になつたり魚になつたり       な

   ゆつくりと鼻から吸つて鼻で吐く     り

    観音様と仰ぐ裸身を          ぎ

   高き日の映る鏡にせかされて       乃

    靴を響かせコサック騎兵        令

   掘りたての人参を手に駆け回り      う

    月も凍るし穴も凍るし         季

   熟睡をぴくりと動く犬の眉        な

    祖母から貰ふ輪ゴム九つ        り

   花万朶帝国陸軍埋蔵金          ぎ

    はたらく船ははるのゆふぐれ      乃

ナオ 大阪に河口干潟の残されて        令

    猫の飛び乗るこいさんの膝       う

   眼鏡かけ憎まれ役で押し通す       季

    同窓会にひとり足りない        乃

   消印ははつなつのニューカレドニア    な

    ポストコロニアリズム論考       ぎ

   いちまいの付箋を剥す昼深く       う

    送信あとは掃除機を連れ        り

   寝室の夫とのあひに誰かゐる       令

    方程式は冷たく甘く          季

   月光の届き始める楽器店         乃

    エディーの方が先に逝く秋       な

ナウ 野は山へ移り疎らに茨の実        ぎ

    双子同時に霜柱踏む          う

   日の当る場所を空までヒット曲      り

    売家を見て大あくびして        令

   塀を越え虚子庵からの花吹雪       季

    うぐひすもちの餡のつややか      乃


起首:2021年10月12日(火)

満尾:2021年11月16日(火)

捌き:三島ゆかり

2021年9月9日木曜日

七吟歌仙 ごまだれの巻

   ごまだれの冷やし中華や退学す    なな

    長き行列続く片蔭        ゆかり

   マラソンが見たさに風を押しのけて  祥貴

    エンタシスよりケンタウロスが   青猫

   月祀る遺構かさなるうぶすなに    冬泉

    山茱萸の実を摘みとる手籠     酔鳴

ウ  かなかなが奏でる革命のエチュード  鮭児

    少し明るきグラスにウォッカ     な

   電流をあちらのお客様として      り

    いつしよにほとばしるわバリまで   貴

   この雨にしなしなと四肢のアンニュイ  猫

    わが屍をかこむ萍          泉

   中国茶ひらかせてゐて月涼し      鳴

    埋めもどされるモノリスの失禁    児

   縦縞も横縞も魚氷に上る        な

    脱獄犯の模型のどけし        り

   酌み交はす叔父貴の背を花爛々     貴

    地上五センチ彷徨つてみる      猫

ナオ 枯野にて北斎のこと蝌蚪のこと     泉

    不意の雪とて入るドトール      鳴

   じふぶんに煉獄ですよと医者笑んで   児

    四角い文字もすらすらと読み     猫

   美しきスヴェトラーナの太り肉     鳴

    亡命の途に開く襟元         な

   けだるさに点けたテレビのばか笑ひ   貴

    同語反復する君の名は        泉

   辻斬られ入れかはりたる右脳左脳    児

    ところ狭しと管のいろいろ      り

   情火より遠くみなぎる望の月      猫

    神籬立てし小舟冷ややか       鳴

ナウ うつむきと異なる磯菊の傾げ      な

    答へ終えたるのちの道行       貴

   甍落ち箔落ち星を踏むたびに      泉

    井戸の深さを返る水音        り

   黒髪に染むをとつひの嘘へ花      児

    かすみの海を馬の駆けゆく      猫


起首:2021年 8月 2日(月)

満尾:2021年 9月 9日(木)

裁き:ゆかり

2021年7月7日水曜日

脇起し七吟歌仙 梅の実の巻

    梅の実やかなしき肌のやうなもの   ゆかりり

    掌にあればその遠きあまおと       聡

   マスタング疾し輪郭を掻き消して     祥貴

    すすきすすきと誘はれてをり      火尖

   安全な真顔で月を見ていたい       りゑ

    もの確かむる虫の叢          銀河

ウ  がうがうと紙吐き続く輪転機       黒兎

    トースト焦がすエプロンのきみ    ゆかり

   ジューサーで絞りきれない思慕しつぽり   聡

    仏と成してローラ・ビーチへ       貴

   入国の合唱団は一人欠け          尖

    竹冠の名字が似合ふ           ゑ

   杖笠に矢立忘るな寒の月          河

    留守居の猫の額なでつつ         兎

   着々と世界征服進みをり          り

    のの字浄土やみちのくの野辺       聡

   寺山のむくんだ頬に花ひとひら       貴

    蝶と化さねば剥がれぬ付箋        尖

ナオ パパゲーノ裏原宿で待ち合はせ       ゑ

    浮世の果てと知りて矢を射る       河

   君の名で三度ログインしくじりて      兎

    立ち上がらない金曜の朝         り

   ケトルベルだんだん父に似てきたね     貴

    抽斗で割る温泉卵            ゑ

   ポケットの接骨院の回数券         兎

    樹海へ入るバスは方舟          聡

   暗がりに目覚めるものと眠るもの      り

    蕣ひらく音のかすかに          河

   天網の匂ひのしない昼の月         尖

    万のレンズにひかる小芋煮        貴

ナウ 冷たさに今すぐ閉じる二枚貝        ゑ

    夢に出で来し雪の風景          河

   十字路で解釈論でぶつかりて        聡

    おのれを写すコンビニの窓        り

   知らぬ間に増えし子の来て花の雲      兎

    やむことのなきふらここの揺れ      尖


起首:2021年06月22日(火)

満尾:2021年07月07日(水)

捌き:三島ゆかり


2021年5月1日土曜日

七吟歌仙 桜餅の巻

   思ひ出すための一日や桜餅      西生

    やがてひかりにとける囀      三島

   風船の轍をのこす雲もなし      秀雄

    抜かれぬやうに立ち漕ぎをして   なな

   衛星の影よぎり行く大き月      今朝

    留守番電話に蜩のこゑ      れいこ

ウ  踊り出す案山子次世代ミュージック  茱萸

    硝子の靴の踵を踏んで        生

   砕け散る糸し糸しと言ふ心       島

    木質化する君の俤          雄

   飲み切つてしまふスコッチウヰスキー  な

    心臓三つ脳は九つ          朝

   新しいパパと見てゐる夏の月      こ

    水中眼鏡外さぬままに        萸

   透きとほる巨きな傘の下にゐて     生

    臨終を待つたそがれの国       島

   青い鼻血が逆巻く川の花明り      雄

    ゆつくり啜る椀より浅蜊       な

ナオ ひたすらにおむつを換へて春暮るゝ   朝

    ござるござると村の長老       こ

   アカウント端末ごとに使ひ分け     萸

    時給の順に送る履歴書        生

   煤逃の初体験は十五歳         島

    をしを商鞅高次構造         雄

   立ち読みの本にみごとな染みをつけ   な

    定刻に発つ深夜特急         朝

   助手席を退いてくれない轡虫      こ

    乃木忌終日ラジオを聴いて      萸

   砂浜をムーンライトの尖りをる     な

    作りものめくカクテルの青      島

ナウ 鳥籠の耳にしづかな小米雪       雄

    新聞王の捨てられぬ橇        生

   セントラル・パークを抜けて蚤の市   朝

    海を夢見て自鳴琴鳴る        こ

   追ふやうに逃れるやうに花筏      萸

    つばめ飛び交ふ地図要らぬ町     な


起首:2021年04月12日(火)

満尾:2021年05月01日(水)

捌き:三島ゆかり

2021年2月13日土曜日

九吟歌仙 よく薫るの巻

   よく薫る女礼者の名刺かな     酔鳴

    末広がりにゆづりはの青    ゆかり

   その日また船尾に旗のはためいて  天気

    きんとん雲で合つてゐるつけ    七

   飲みすすむ桂男もめでる酒     遊凪

    白露といふうつくしき嘘     青猫

ウ  からつぽの郵便受けは行く秋の   夜景

    ダリの画室にとろける時計    月犬

   野良犬の眉間の先にぶら下がり  けんじ

    埋蔵金を打つ検土杖        鳴

   変更を余儀なくされる海開き     り

    月を肴の見越しの葭簀       気

   足跡をたうたう夢に埋めたり     七

    ジーンズ似合ふ三つ編みのひと   凪

   さて今日は霊長類になりすます    猫

    雨水の城に隠す天秤        景

   ゆさゆさと大枝に揺れ花の夜     犬

    遠くに響く虫出しの雷       じ

ナオ 五丁目の歯医者はすぐに抜きたがり  鳴

    まだ生きてゐる闇の神経      り

   秒読みに入る枯野の発射台      気

    混沌屯画像乱るる         七

   さそり座の彼氏を追つてハワイまで  凪

    ジュラ紀の魚となるまで泳ぐ    猫

   燃ゆる木の顛末を説く閑古鳥     景

    廃墟めきたる場末のホテル     犬

   テーブルに伏せ置かれたる請求書   じ

    放電しきるタニマチの袖      鳴

   月の浜靴美しく並べたり       七

    芒の波へまたひとり消え      気

ナウ 銀杏散る午後を開拓史の講義     り

    株式相場上下運動         凪

   旋律は雪原を越え戸口へと      犬

    羊たちみな声がはりして      景

   あかつきの足裏をそつと花の塵    猫

    始発の動く風光る街        じ


起首:2021年 1月 5日(火)

満尾:2021年 2月13日(土)

捌き:ゆかり