2020年6月20日土曜日

七吟歌仙 恢復の巻

   恢復の友の笑顔や薔薇垣根      月犬

    髪の長さが及ぶ蜘蛛の囲     ゆかり

   潮の香と日暮が軒に満ちてきて    苑を

    そろりそろりと硯を洗ふ     らくだ

   有明はゆふべの夢の行き止まり   ゆらぎ

    案山子のシャツの破けたる襟    なな

ウ  美術室繁忙文化祭間近        なむ

    浮浪雲めく烟草のけむり       犬

   お代はりと桃井かおりの声色で     り

    豊葦原をいちにち歩く        を

   五本指ソックスどこも在庫なし     だ

    斎戒沐浴能面を打つ         ぎ

      だんだんと冬月硬くなつてゆき     な

    火鉢跨いだまんま動けず       む

   暗がりで魔女が煎じる惚れ薬      犬

    呪ひにも似て片思ひ濃し       り

   薄墨の花の吐息を漏らすらむ      を

    紙風船はたたまれてをり       だ

ナオ 逃げ水をキックボードで追ふ子ども   ぎ

    母の名前を繰り返し言ふ       な

   焼跡のかしこにしろきもの噴いて    む

    地獄の釜の蓋すこし開く       犬

   舌おほき男をずつと待つてゐる     り

    小劇場の浮かぶ宵闇         を

   スカウトの名刺もらひて有頂天     だ

    霙まじりの滝壺に入る        ぎ

   NTTドコモのスマホ解約し      な

    色鳥のあの一羽捨てます       む

   分校の窓白白と月あかり        犬

    どしどし集ふ夜寒のけもの      り

ナウ 吹けよ風呼べよ嵐と咆哮す       を

    テンポを決めるドラムスティック   だ

   半生は舟を持たないままに過ぎ     ぎ

    空を読む目にあをの滲みて      な

   地上波の涯をはらはら花の雨      む

    燕来る日のただいまのこゑ      犬


起首:2020年 6月 5日(金)

満尾:2020年 6月20日(土)

捌き:ゆかり