2021年2月13日土曜日

九吟歌仙 よく薫るの巻

   よく薫る女礼者の名刺かな     酔鳴

    末広がりにゆづりはの青    ゆかり

   その日また船尾に旗のはためいて  天気

    きんとん雲で合つてゐるつけ    七

   飲みすすむ桂男もめでる酒     遊凪

    白露といふうつくしき嘘     青猫

ウ  からつぽの郵便受けは行く秋の   夜景

    ダリの画室にとろける時計    月犬

   野良犬の眉間の先にぶら下がり  けんじ

    埋蔵金を打つ検土杖        鳴

   変更を余儀なくされる海開き     り

    月を肴の見越しの葭簀       気

   足跡をたうたう夢に埋めたり     七

    ジーンズ似合ふ三つ編みのひと   凪

   さて今日は霊長類になりすます    猫

    雨水の城に隠す天秤        景

   ゆさゆさと大枝に揺れ花の夜     犬

    遠くに響く虫出しの雷       じ

ナオ 五丁目の歯医者はすぐに抜きたがり  鳴

    まだ生きてゐる闇の神経      り

   秒読みに入る枯野の発射台      気

    混沌屯画像乱るる         七

   さそり座の彼氏を追つてハワイまで  凪

    ジュラ紀の魚となるまで泳ぐ    猫

   燃ゆる木の顛末を説く閑古鳥     景

    廃墟めきたる場末のホテル     犬

   テーブルに伏せ置かれたる請求書   じ

    放電しきるタニマチの袖      鳴

   月の浜靴美しく並べたり       七

    芒の波へまたひとり消え      気

ナウ 銀杏散る午後を開拓史の講義     り

    株式相場上下運動         凪

   旋律は雪原を越え戸口へと      犬

    羊たちみな声がはりして      景

   あかつきの足裏をそつと花の塵    猫

    始発の動く風光る街        じ


起首:2021年 1月 5日(火)

満尾:2021年 2月13日(土)

捌き:ゆかり