2020年2月26日水曜日

脇起し五吟歌仙 直線の巻

   直線を鱗と思ふ紀元節      ゆかりり

    鄙の入江の香る壺焼         聡

   うらうらと雲を欄間に刳りぬいて  ふもと

    僧侶と祖母の四方山話     瓦すずめ

   月影の沁みるばかりの大谷石      聡

    団栗太る城下公園          と

ウ  馬の目に遊ぶ炎のさやかなり   抹茶金魚

    風にはためく元カレの背     ゆかり

   駅前に恋のギターを弾き続け      め

    冬めく指に星影を生む        魚

   牛乳をこぼしてからの四畳半      り

    アッフォガードに溶ける短夜     聡

   辺獄の月の涼しさかくあらむ      と

    水晶玉の隠さるる地下        め

   空耳は昨日の息の青さして       魚

    卒業式の練習の午後         り

   花ふぶく吹奏楽の熄みしあとも     聡

    鱒いただけば斑のうつくしき     と

ナオ 安宿に鼻の大きな客ばかり       め

    秒針のなき時計の静止        魚

   電流を集め未来へ行き過ぎる      り

    無人カーではまだ人を轢く      聡

   吊るされた男のほかはみんな嘘     と

    夏雲が笑む選挙ポスター       め

   短夜の鏡の中の冷気美し        魚

    ハイレゾで聴くオンドマルトノ    り

   いつのまにスイングし居りすすきの穂  聡

    二百十日を前の買ひ出し       と

   浮浪児が柘榴を眠たげに齧る      め

    椅子を積み上げ飛ぶ後の月      魚

ナウ 歩くたびさざ波が消す下駄の跡     り

    スロージンでは失せぬおもかげ    聡

   きみの名できみを呼ぶたび遠くなる   と

    名残の雪に猫の尾は揺れ       め

   一塊のさざめきとして花の雲      魚

    海でつながる春の国々        り


起首:2020年 2月11日(火)

満尾:2020年 2月26日(水)

捌き:ゆかり


2020年2月20日木曜日

七吟歌仙 音階の巻

   音階の下りてゆきたる寒暮かな    あんこ

    左手が打つ底冷えの底       ゆかり

   島影のやうやう白む舷に      くらげを

    翼ふるはす名も知らぬ鳥       れい

   月めざし友とジョギングするコース   遊凪

    早稲の香ゆるく揺れ淀みをり      梓

ウ  円墳のやうに盛られし菊膾       陽子

    やはらかき目の誘ふ次の間       こ

   かたかたと百の端末動きをり       り

    順に奥より始まる脱皮         を

   新月の梔子の香と大麻の香        い

    結んだ髪の浴衣連れにて        凪

   ここへきて遺書がどうのと揉めてゐる   梓

    シルデナフィルを過剰摂取し      子

   冴返る山と思へば君の腹         こ

    うす霞みをる注連縄と垂        り

   花すでに此の世の崎を昏うして      を

    バスは走れり街に帰らむ        い

ナオ 見学は灘界隈の酒の蔵          凪

    するする喉を滑る蘭鋳         梓

   国芳の化け猫つひに出てきたり      子

    果てなく続く闇の板塀         こ

   べからずの鳥居とべしのおみくじと    り

    取替へてみんふた心もて        を

   男装の姫に恋する内侍たち        い

    佳人の園に響く鈴の音         凪

   野に萩はこぼれて重き日の残り      梓

    バーレッスンの手すり冷ややか     子

   林檎食む同じ口もて秘密告ぐ       こ

    昼月透ける鰯雲なり          り

ナウ 旅いつもつづきのやうに始まりて     を

    降りつむ雪に記憶蔵はる        い

   パソコンのメモリ容量拡大し       凪

    しやつくりのまま過ごす閏日      梓

   豊かなる胸を隠せし花ごろも       子

    春夕焼へ深くお辞儀を         こ


起首:2020年 1月24日(金)

満尾:2020年 2月20日(木)

捌き:ゆかり