2017年1月16日月曜日

永遠の転校生

 岡田由季『犬の眉』(現代俳句協会)の最後は、「超軽量」。
 
  すこし先の約束をして猫じやらし
 約束の中身については何も触れていない。ただ、まったく平生と変わらぬかのような季語と取り合わせる。だから却って人生の転機となる約束なのではないかと想像がふくらむ。
 
  枯芝に思ふぞんぶん菓子こぼす
 句集全体を通して句の幅としても作中主体の生活態度としても非常に抑制が効いていて、おもいっきり羽目をはずして「やったぜ」という感じのものはほとんど見当たらない。そんな中での「思ふぞんぶん」が「菓子こぼす」であるのがひどく微笑ましい。

  追ふ蝶と追はるる蝶の入れ替はる
  急がぬ日急ぐ毛虫を見てゐたり

 句集全体を通して表面的な作句技法に走る傾向はほとんど感じられないし、むしろそういうことを感じさせないように周到に配慮しているのではないかとも思うのだが、そんな中でのリフレインの二句。

  ひとりだけ言葉の違ふ茄子の紺
 あるいは東京から関西に移り住んだ境遇を籠の中の茄子に託しているのかも知れないが、そんな読みはしない方がいいだろう。これまで見てきたように岡田由季の句は、その場所に初めて立ったような奇妙なずれや、小学生が初めて感じたような違和感を打ち出すことによって、岡田由季ならではの飄逸さに充ち満ちている。たとえていうなら、岡田由季とは永遠の転校生なのだ。

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