2018年1月6日土曜日

清水径子『鶸』(1)

 まずは『SASKIA』10号の清水径子二百五十句(三枝桂子抄出)から第一句集『鶸』(昭和四十八年 牧羊社)六十一句。抄出者の感性にもよるのかもしれないが、かなりの量の数字に驚く。一丁、一つ、ひとり、二月、一本松、千年、一本、千体、一粒、一肢、八月、一日、二十数年前、一滴、二月、一生。これが重大な意味を帯びてくるのかは保留ながら事実としてまずとどめておこう。

   風ときて寒柝消ゆる鏡かな 清水径子
 抄出はこの句から始まる(実際に句集の中で巻頭なのかは分からない)。子音kで頭韻を揃え緊張感を湛えた幻想的な句である。この語順で書かれると、寒柝の音は鏡のなかへ消えて行ったように読める。

   目のみえぬ魚がみひらきゐる晩春
   地虫鳴く目の中くらくあたたかし
 抄出では二句並んでいるが、いずれも目という視覚の器官を素材に、目にみえないものを把握しようとしている感がある。

   元日のきこゆるものをひとり聞く
   亡弟に赤き花挿す二月かな
   誰か来よ一本松の雪雫
 抄出では三句並んでいる。ここまで来ると、清水径子にとって聴覚が特別の位置を占めているようにも思われてくる。二句目は生前の思い出を語っているのではなかろう。第一句集にして、死者が自在に立ち現れる清水径子ワールドが始まっているのだ。そして、亡弟を手がかりとすれば、前句の「ひとり」、次句の「一本松」がなんとも意味を帯び始める。
 
(続く)

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