とある絶版フェアで宮地伝三郎『俳風動物記』(岩波新書)なる本を購入しました。1984年に出た黄色時代の岩波新書で、著者は動物生態学専攻の学者。目次はこんな感じです。
Ⅰ 香魚のすむ国
香魚のすむ国
Ⅱ 水辺の優位者たち
カワウソと獺祭
水郷のおしゃべり鳥・行々子
カイツブリの生活と行動型
Ⅲ 俳諧師との湖沼紀行
アメノウオと湖沼類型
イサザの幼態進化
タニシを鳴かせた俳諧師
三種のシジミと環境語
Ⅳ 不殺生戒の時代
蚊を焼く
放生会
川狩りの記憶
取り沙汰される句はほとんど江戸期のものですが、著者自身の句(俳号・非泥)も少なからず掲載されています。
例えば「蚊を焼く」の章。昔の人は蚊帳に入ってしまった蚊を紙燭で焼き殺していたのですね。はじめて知りました。
蚊を焼いてさえ殺生は面白き 川柳
紙燭してな焼きそ蚊にも妻はあらん 二柳
閨の蚊のぶんとばかりに焼かれけり 一茶
蚊を焼くや褒姒(ほうじ)が閨の私語(さざめごと) 其角
蚊を焼くや紙燭にうつる妹が顔 一茶
ぶんという声も焦げたり蚊屋の内 白芽
蚊を殺す罪はおもはず盆の月 写也
後の世や蚊をやくときにおもはるる 成美
独寝や夜わたる男蚊の声侘し 智月
などの句を俎上にのせ、動物生態学や死生観の見地からうんちくを傾けています。今日でこそ血を吸う蚊はメスであることが知られていますが、二柳や智月の句をみると江戸期にはオスの蚊が血を吸うと思われていたのですね。
ところで其角の句、褒姒を検索すると面白いです。
だが、褒姒はどんなことがあっても笑顔を見せることはなかった。幽王は彼女の笑顔を見たさに様々な手段を用い、当初、高級な絹を裂く音を聞いた褒姒がフッと微か笑ったのを見て、幽王は全国から大量の絹を集めてそれを引き裂いた。
という記述があって、そうすると俄然気になるのが其角の有名な句。
越後屋にきぬさく音や衣更 其角
この句について小西甚一は『俳句の世界』(講談社学術文庫)で「(越後屋は)それまでは一反単位でしか売らなかった旧式の経営法を改革し、ほんの一尺二尺でも快よく分け売りをした。(中略)「絹裂く」はその分け売りをさす」と書いていて、もちろんそうなんだろうけど、其角なら「さんざん儲けて女かこって幽王みてえなことしてんじゃねえか」くらいの皮肉を込めたのではなかろうか、と、ふと思うのでした。
0 件のコメント:
コメントを投稿