2016年4月14日木曜日

(5) 句の姿かたち

 俳句自動生成ロボット「はいだんくん」は、ごく大ざっぱにいうと、かちっとした句型に対しランダムに語彙を流し込んでいる。前号までで季語、名詞、動詞、修飾語と、ランダムに変化する語彙の種類を増やしつつ、特に説明することもなくおのずと句型も増えていたのだが、今度は句型について着目してみよう。俳句入門書みたいな進行となり、改めて人間として作句のありように思いを馳せることになるかも知れない。

 その一。切れ字。「はいだんくん」では「や」「かな」「けり」を使用している。切れ字によって何が何から切れているのかというのは諸説あるところであるが、俳句の前身である俳諧(連句)の発句が、脇(二句目)以降から切れて、一句として独立した世界を提示しているとする説に一票投じたい。切れ字のある句は切れ字によって独立するとともに、詠嘆し余韻を残す。ロボット自身は感情を持たないが、ロボットが切れ字とともに詠んだ句には詠嘆が感じられる。これは切れ字がまとった伝統とか文化とかによるものであり、読み手がその文化圏にいることを前提として成り立っている。これは人間が詠んだ句を観賞する場合でも同様である。作者の感情がどれほどの量で詠嘆していようと、句としてそれなりの形ができあがっていないと読者には伝わらない。多くの入門書が切れ字にページを割いているのは、手っ取り早くそれなりの形をマスターして先人と同じ文化圏に立ちましょうということなのだ。

 その二。季語。「はいだんくん」は厳格な有季定型を貫いている。一句にひとつ季語を含み、季重なり、季またがりなど初心者にはタブーとされることはしない。一般的な入門書で季語を詠み込むにあたりもっとも注意されることは、「季語を説明しない」ということだが、その点ロボットはじつに気が楽である。季語もそれ以外もまったくランダムとしているので、大抵の場合、適度に意味が通らないのだ。もっとも偶然にまかせているので、意味が通り過ぎる駄目駄目な句ができてしまうこともあるが、そんなときは「次の一句」を押そう。

 蒲公英の影を漏らしてしまひけり  はいだんくん

(『俳壇』2016年5月号(本阿弥書店)初出)

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