2018年3月11日日曜日

脇起こし五吟歌仙・夕陽暫くの巻


   夕陽暫く塔を捉へる寒さかな    眉村卓
    飛行機雲の凍る静寂       ゆかり
   中学の裏の近道駆け抜けて      媚庵
    お札はすべて後ろポケット     なな
   ちりぢりと川波立つを望の月     銀河
    人工芝に蜩の鳴く         りゑ
ウ  長き夜を二階の父のパター落つ     り
    点滅やまぬ着信表示         庵
   耳たぶを噛む酒の香を漏らしつつ    な
    愛しきタマに戒名の欲し       河
   あやとりの橋もあやしくひるがへり   ゑ
    潮もかなひぬ銀の少女よ       り
   馬車が行き犬が馬車追ふ夏の月     庵
    胎児のころの夢を見てゐる      な
   沫雪の溶けてかすかに音がして     河
    試験あがりのダージリンティー    ゑ
   技師長の退官の日の花万朶       り
    海鳴り遠き駅に汽車待つ       庵
ナオ ひとりだけギターケースがナイロンで  な
    小石蹴とばしゆくハイヒール     河
   油揚げふくろにひらくももんがあ    ゑ
    ハットリくんのお面で迫る      り
   化け損ね甲賀の里の樹氷林       庵
    次来るときは餌を一屯        な
   浮世絵はコピーアートのさきがけと   河
    記念硬貨でお釣りを貰ふ       ゑ
   段違ひ平行棒に小鳥来る        り
    軍服を着た斜めの案山子       庵
   こめかみに栗名月の貼り付いて     な
    憂世なんめり小夜の中山       河
ナウ 煎餅の袋にくわりんたうを詰め     ゑ
    螺髪の如き鉄瓶の肌         り
   自転車で帰れば空にオリオン座     庵
    楽屋見舞のタヲルやはらか      な
   湯煙に見え隠れして花万朶       河
    うまし大和に風船の旅        ゑ


発句:眉村卓句集『霧を行く』より
起首: 2018年01月10日
満尾: 2018年02月26日

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