2018年5月19日土曜日

五吟歌仙 垢のなきの巻

   垢のなき耳で見にゆくさくら哉    なな
    乳母車押す囀のなか       ゆかり
   遅き日の遅きバス待ちくたびれて   媚庵
    山はこちらに海はそちらに      霞
   月ひとつ砂に埋めれば魚の啼く    七節
    野分のなかを駆けぬける影      な
ウ  跳躍し神に近づく夜の鹿        り
    ワインセラーに口紅忘れ       庵
   東京で私の未来だつた人        霞
    ノイズは濡れるラジオのやうに    節
   ペン入れを螢光ペンの飛び出して    な
    半日でとる原付免許         り
   湾岸に熱風吹きて月のぼる       庵
    あさぼらけるけかつぱはねるね    霞
   鍵穴に宇宙卵が挿してある       節
    アンドロメダ忌まで飲み明かす    な
   花冷えの記憶の漬かるホルマリン    り
    万愚節とて行く女坂         庵
ナオ 淡雪に母校の灯りは消えたまま     霞
    色紙に溢る言葉優しき        節
   伊東屋のサンプルとして置かれたる   な
    アニマル柄の還暦祝ひ        り
   漕ぎながら枯野の果ての補陀落へ    庵
    真綿でくるむ貴方の右手       霞
   燃えてゐる麒麟の舌は夜を這ふ     節
    新潮文庫の天アンカット       な
   海底のやうに時間が降り積もり     り
    先祖代々槍の家柄          庵
   望の夜に神と仏と盃を         霞
    波間ただよひ尾花蛸行く       節
ナウ 雁瘡の幼子ふたり寝かしつけ      な
    メビウスの帯クラインの壺      り
   見あげればエデンの方へ雲流れ     庵
    伊予柑むいたままの手のひら     霞
   言の葉を拾いつつ行く花のなか     節
    じやんけんぽんで出づるてふてふ   な


起首:2018年03月27日
満尾:2018年05月14日
捌き:ゆかり

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