例えば私たちの句会にこんな句が紛れていたら、どうでしょう。
稲妻を手にとる闇の紙燭かな
肯定するにせよ否定するにせよ「稲妻を手にとる」の強烈な措辞が批評の対象となり大いに盛り上がるはずです。
ところがこの句、実は芭蕉の句で「李下に寄す」という前書きがあり、李下とは芭蕉の深川の庵に芭蕉(植物)を贈った人で、「お前の句風は、たとえていえば、闇を照らす紙燭として、あの大空の稲妻を手にとったかのごときあやしさがあるようだ」の意、とのことです(加藤楸邨『芭蕉全句 上』(ちくま学芸文庫)による)。まことに五七五の裏に隠された伝記的事実は、句を見ただけでは分かりません。
古いテキストを読むときは、それなりの心構えと準備がないと手には負えないということを、改めて実感する今日この頃です。
はつなつの風の名前を考へる ゆかり
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