100題100句、あらためて題つきで。題詠というのは創作というよりは受注生産に近い世界ですね。これはこれで楽しいものです。
001:風 半身の線をあらはに涅槃西風 ゆかり
002:指 花烏賊の間違つてゐる指づかひ
003:手紙 永き日の物理的には手紙かな
004:キッチン 大脳のここがキッチン鳥雲に
005:並 歳時記や平年並みの鳥曇
006:自転車 自転車のきはどき裾の丈や春
007:揺 びつしりと揺るるものなき五月闇
008:親 近親のあぶなきものを土用干
009:椅子 偉さうな椅子向合ひて梅雨の入
010:桜 葉桜といふをはばかる黒き幹
011:からっぽ からつぽのものみな丸き黴雨かな
012:噛 梅雨寒や歯のなき口で乳首噛む
013:クリーム まどかなるクリームソーダ隙間なし
014:刻 〆切のやうな黒南風刻々と
015:秘密 夫には秘密の結社釣忍
016:せせらぎ 梅雨の日のせせらぎの音滝の音
017:医 火にかけて医食同源秋に入る
018:スカート 脱げばもうスカートでなき秋彼岸
019:雨 傘持たぬ雨女ゆゑ鰯雲
020:信号 信号の赤澄んでゐる夜長かな
021:美 美しき肌一枚の秋めけり
022:レントゲン 長月や前掛け重きレントゲン
023:結 濾胞性結膜炎や小鳥来る
024:牛乳 牛乳に白きいのちや雁渡し
025:とんぼ ぎらぎらと首都にとんぼのおほきかな
026:垂 胃下垂の位置あらためる新酒かな
027:嘘 残暑なほ嘘と知りつつ百日紅
028:おたく 歳時記を集めるおたく木の実降る
029:草 太陽の真つ赤に燃えて草雲雀
030:政治 政治部の窓に朝顔すましをり
031:寂 静寂や引力により柿落ちる
032:上海 上海に天竺飯店秋の暮
033:鍵 合鍵を持つまでもなき鰯雲
034:シャンプー シャンプーを言ひ当てられる良夜かな
035:株 株主のたなびいてゐる秋の空
036:組 細胞に悪の組織や夜半の秋
037:花びら とれるまで花びらでなき寒椿
038:灯 夜の霧を探照灯の直進す
039:乙女 コンベアに俯く乙女紫苑かな
040:道 行く秋の道なき道を恋の道
041:こだま こだまSuicaひかりを待つてゐたるかな
042:豆 蚕豆のやうな顔から光線銃
043:曲線 ゴンベルツ曲線となる囮かな
044:飛 渋柿の飛沫をあげてをりにけり
045:コピー 受験票に写真のコピー不可とあり
046:凍 宇宙では冷凍人間を食べる
047:辞書 辞書になき意味の朝立ち芋の露
048:アイドル 彼に訊くアイドルのこと鰯雲
049:戦争 戦争のきつかけを待つ菊日和
050:萌 いつせいに少年萌ゆる都かな
051:しずく のぼり来る線香花火のしづくかな
052:舞 秋の夜の伸び縮みする舞曲かな
053:ブログ 夜の虫のやうにブログの響きをり
054:虫 虫五匹ほどの革命起こりけり
055:頬 頬杖の肘を払はれ向日葵落つ
056:とおせんぼ ももんがのとほせんぼするかたちかな
057:鏡 鏡像の話しかけたる神の留守
058:抵抗 馬肥ゆる可変抵抗詩人かな
059:くちびる 三日月のやうなくちびる釣り五円
060:韓 秋深しフローチャートに韓国語
061:注射 注射器を持たぬ手で持つ秋の腕
062:竹 抱籠の結婚すれば竹夫人
063:オペラ 天高しオペラと違ふミュージカル
064:百合 族をなし噎せ返りをる夜の百合
065:鳴 鳴くまでの黒き日和や鳩時計
066:ふたり 十月のふたりで雨戸閉めにけり
067:事務 事務員の手練手管や秋黴雨
068:報 情報の漏洩したる崩れ梁
069:カフェ 小鳥来るカフェのメニューのイタリア語
070:章 章・賞と左右対称天高し
071:老人 俳人に老人多し秋の空
072:箱 箱に入ることもなくなる夏木立
073:トランプ 切れぬならトランプをすな秋の雨
074:水晶 恋人の水晶体で占へり
075:打 打楽器の売場にカスタネットかな
076:あくび 歳時記にあくびのなくて明急ぐ
077:針 針の穴通るボールや秋の暮
078:予想 予想外妊娠と告げられし秋
079:芽 ものの芽のバレーボールを呼び寄せり
080:響 子規ならば交響曲をいくつ書く
081:硝子 硝子吹き線香花火やや思ふ
082:整 整とんのとんが分からぬ大掃除
083:拝 拝島に行つたことなき秋麗
084:世紀 行く秋の世紀末ゆゑ化粧濃き
085:富 黄落やまた騙される富司純子
086:メイド 舌を巻くリヴィングラヴィングメイドかな
087:朗読 朗読の真空管の灯りけり
088:銀 銀行の達者な和訳鶏頭花
089:無理 螻蛄鳴くや無理数といふ無理な数
090:匂 秋や酒匂川が読めぬてふ句を読みにけり
091:砂糖 小春日や花のかたちの角砂糖
092:滑 色鳥や滑車と梃子のない暮らし
093:落 性欲のなき落書きや銀杏散る
094:流行 流行の一夜で変はりななかまど
095:誤 誤字脱字添付ファイルもなくて春
096:器 器にも穴のあるなし秋黴雨
097:告白 告白の後の廊下の夏に入る
098:テレビ 乱れ飛ぶテレビの電波赤とんぼ
099:刺 刺青を刺身にしたる秋の暮
100:題 天気さん100題100句ありがとう
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