小林苑を『点る』(ふらんす堂)は、著者による第一句集。経歴に記載された生年は目を疑うが、「凧むかし子供に焼野原」という句もあるのでほんとうなのだろう。
白地に銀色で北村宗介氏の書をあしらった素晴らしい表紙を開くと、最初の五句は以下。
空室の壁に麦藁帽子の黄 苑を
天道虫飛んでしつかり朝御飯
横濱茶房白南風の映る匙
赤茄子をがぶりと休暇始まりぬ
群青の水着から伸び脚二本
なんと五句中四句まで「黄」「白」「赤」「群青」と色を詠み込んでいる。装丁からすでに周到に苑をワールドは始まっていて、白を基調とする装丁を開くと、読者は一気にカラフルな世界に身を投じることになる。そのためのイントロダクションとしての白を基調とする装丁なのである。帯の櫂未知子の引いた句が奇しくも「こころ惹かれて色鳥の名を知らず」。実に楽しい。
そして句の配列がこれまた実に周到で、連句への造詣も深い著者ならではの味わいがある。もちろん句集なので連句のマナーそのもので並んでいる訳ではないのだが、配列へのこだわりがびんびん伝わってくる。例えば、
群青の水着から伸び脚二本
の次は「二」つながりで
遠泳の母の二の腕には負ける
そのつぎは「ひとりぽつち」となり
背泳ぎのひとりぽつちといふ浮力
そのつぎは消滅する。
奇術師のまんまと消えるソーダ水
実に巧妙な配列である。冒頭の八句だけでこれだけ楽しめるのだから、後は言うに及ばずである。これは大いにはまる。
【追記】
掲示板にて句集『点る』上梓記念興行「お祝ひ歌仙・点るの巻」が進行中です。ぜひご参加下さい。
(もうひとつ「托卵の巻」というのも同時に巻いておりますが、こちらは六吟にて締切となっております。悪しからずご了承下さい。)
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