加藤かな文『家』(ふらんす堂 2009年)は、四十代の著者による第一句集。総じてオーソドックスで生活に根ざした作風だが、時折妙に可笑しくツボにはまってしまう句が混ざる。どこか着眼点とかタイミングとかが絶妙なずれ方をしているのである。例えば「金蠅」の句、「来客」の句、「水甕」の句、「卒業生の椅子」の句、「初蝶」の句。
葉脈の太々とある桜餅 加藤かな文
鮎片面食うて明かりを灯しけり
巻きついて昼顔の咲く別の草
鳴く鳥と飛ぶ鳥のゐる昼寝覚
朝顔の壊れてけふも咲きやまず
小春日の坂は集まり一本に
梅雨の窓開けば幹の途中なり
海までの長き熱砂と金蠅と
こぼすもの多くて鳥の巣は光
雲の峯まぶしきところから崩る
来客の後ろに夜と裸木と
帰りには雪の花壇となりにけり
湯のやうに踝に来る仔猫かな
水甕に金魚ゐるはず冬の星
吾よりも濃き影をもつ菫かな
まつすぐに並ぶ卒業生の椅子
音のして見れば月なり春の暮
朝顔の百が力を抜いてをる
案外と野分の空を鳥飛べり
木枯や吾より出づる父の声
裸木の裸に濃きと薄きあり
燃え跡の出てくる雪の畑かな
あらはれてから初蝶のずつとゐる
数へ日や一人で帰る人の群
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