2017年9月20日水曜日

『星恋 表鷹見句集』(2)

  みごもりて蛇を提げくる人に会ふ   表鷹見
 作中主体がみごもっているのか、蛇を提げくる人がみごもっているかであるが、表鷹見は男性であり、作中主体の移動は他の句には見られないので後者だろう。隠喩的な一句である。
 
  父の葬列父の青田の中通る
 生命感のみなぎる青田を葬列が通る。故人となった父がついこのあいだ苗を植えた青田。万感のリフレインである。

  石炭を雪ごと焚きて汽車疾し
 蒸気機関車の運転台の後ろには、水と石炭を格納する炭水車が連結されている。炭水車の石炭には覆いがないので、雪が降れば当然石炭を雪ごと焚くことになる。先に掲げた「氷塊を木屑つきたるまゝ挽けり」にも通じ、委細構わぬ機関士の仕事ぶりが目に浮かぶ。西東三鬼にも「雪ちらほら古電柱は抜かず切る」という句があるが、委細構わぬ仕事ぶりの句は探せばいろいろあるのだろう。ちなみに誓子は「雪ごと焚きて汽車疾し」を因果と捉え「選後独断」でこんなことを書いている。

 この句は何故にこんなに面白いのであらうか。先づ石炭を雪ごと焚いたことが面白い。石炭と雪とは、氷炭相容れずの氷と炭である。相容れざる石炭と雪とを突如として連絡し、それ等を共に焚くことによつて、両者の矛盾を一挙に解決したのである。
これは謂ふところのウィットであつて、快感はそこから起るのである。
次に雪まじりの石炭が汽車を疾く走らしたことが面白い。雪は汽車を走らす力とはなり得ない。しかしそれが石炭と共に焚かれることによって火力となり、汽車を疾く走らしたと云ふのだ。そこが面白いのである。
この句にはそれ等二つの面白さがうち重つてゐるのである。

 
 誓子にみえるものが私にはまったく見えていないようである。

(続く)

0 件のコメント:

コメントを投稿