2018年11月20日火曜日

山本掌『月球儀』を読む(1)

しばらく山本掌『月球儀』(DiPS.A)について書く。
(著者にご恵送頂きました。ありがとうございます。)
 最初の章は「朔太郎・ノスタルヂア」と題され、萩原朔太郎が撮影した写真六枚と山本掌の句のコラボとなっている。朔太郎の写真は初めて見たが、ここで使われている多くは茫洋とした不思議なものである。わりとくっきりしたものでは「大森駅前の坂道」という一枚があるが、ひと気のない白昼の坂道と石垣を遠近法の構図で捉えたもので、それはそれで夢のようである。右側の高台は光の関係でほぼ影となっている。例えばその一枚に添えられた句は以下。

  影なくす唇(くち)に秋蝶触れてより 掌

 このように写真を説明する訳でもなく、付けられている。秋といえばものの影がくっきりとする季節であるが、幻想の入口であるかのように、倒置で「影なくす」と切り出している。

 次の章は「さくら異聞」。三部に分かれ、さくらにまつわる四十句が収められている。「日月流離糸をたぐればさくらかな」で始まり「白馬(あおうま)のまなぶたをうつさくらかな」で終わるが、四十句全体がひとつの世界でそこから一句を切り出して鑑賞したりするものではないのだろう。憎悪、瞋恚、妬心、殺意などの激しい感情が妖艶に移ろい、美童が打擲され臓器がゆらぐ。
 
(続く)

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