2011年2月11日金曜日

きざし5

ゆく春のあをき放送室に鍵        近恵

 学校において放送室は唯一の機能上内側から鍵をかけることができる遮音空間であり、晩春のむらむらした陽気の中で発育ざかりの生徒たちは、怪しげな映像を再生したり、その気になりさえすればさらには行為に及ぶことだって可能である。具体的なことはなにも述べず「あをき放送室に鍵」とのみ密室を表現したところに、淫靡さのエキスを感じる。

黒々と巨人立ち上がりて驟雨       近恵
大丈夫水着姿にはならない


 この二句から感じられるのは、肉体の過剰と嗜虐である。とりわけ後者からは肉体の過剰と抑止効果がないまぜになった嗜虐を感じる。

とつくりセーター白き成人映画かな    近恵

 その世界には疎いのだが、おそらく「成人映画」という言葉は死語で、ある一時代を思い出させるものなのだろう。テレビが普及して映画館に足を運ぶ人が激減し、映画制作の予算が大幅に削られ、少ない予算で制作できる内容に移行した時代である。もっと時代が下ると、ビデオやパソコンの普及により、そういう目的の映画は存在理由をほぼ失ったのだろう。白いとっくりセーターも、そんなものを着ている人はまったく見かけなくなった。そして人々の記憶の中で、白いとっくりセーターの時代と成人映画の時代は見事に重なっているのである。

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