2016年7月10日日曜日

見え隠れするあはれ

●スパイラル方式の例
立秋やひと刷けの雲風に透き    百花 秋 時候
朝の月雲の白さとなりて透く       秋 天文
すきとほる雲を仰ぎぬ花水木       春 植物


 先に「色なき風」に言及したわけだが、陰陽五行説云々はどうもあまり関係ないようだ。ごく薄い雲がほどけて青空に溶けて行くイメージが繰り返し詠むべきテーマとしてあって、挑戦し続けているというのが真相なのでは。二句目は月を詠んでいるわけだが、「雲の白さとなりて透く」と言っている以上、雲のヴァリエーションだろう。

春惜しむ身の透く魚はかさなりて     春 時候
白魚の水に尾鰭のあるあはれ       春 動物

 雲と魚のちがいこそあれ、かたちあるもの、いのちあるものが透けて見え隠れすることについて、作者は二句目にあるように「あはれ」を感じずにはいられないのだろう。そこにこそ、「立秋やひと刷けの雲風に透き」を句集全体の巻頭に置いたこと、それも第一部の歳時記構成を春ではなく、わざわざ秋から始めることによってそうしたことの理由があるのではないか。

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