2016年7月9日土曜日

生命感みなぎるノンセンス

●別の時に詠んだ句が並んだであろう例
おそろしやおそろしや秋のスズメバチ 百花
集団的自衛権あり秋の蜂


 「秋の蜂」というのは角川の合本歳時記だと「秋が深まっても生き残っている蜂。蜜蜂のように成虫のまま越冬する蜂もいる。一般には秋が深まると大方は死んでしまうが、雌の中には生き残って冬を越すものもある」という説明なので弱々しそうな気もするが、百花句においては生存をかけて凶暴化している印象を受ける。ちゃんと調べた訳ではないが、ハチやアリは集団で行動するので、純粋に種の保存をかけて集団的自衛権を行使するのだろう。邪悪で欺瞞に満ちた人間界のそれとは様子が異なるはずだ。

寒卵単細胞は昔から
ミトコンドリアにイブの血の濃さ寒卵


 こちらは遊び心に満ちている。卵といえば何かしら生物学的な言葉を並べたくもなるものだが、「単細胞は昔から」とは身も蓋もない自虐ぶりである。「ミトコンドリア」は高校の生物の授業で習ったはずだが忘れた。「生物のほとんどすべての細胞質中に存在する糸状に並んだ顆粒状構造の細胞小器官」だそうである。それに『創世記』のアダムの肋骨から作られた女イブを配し、しかも季語が「寒卵」だという、生命感がみなぎるものの実際のところ意味の汲み取りようのないノンセンスぶりがじつに可笑しい。

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