2019年3月20日水曜日

七吟歌仙 春雨の巻

   春雨や剥けば魚肉のやはらかさ    凱
    折檻のごと恋猫のこゑ     ゆかり
   朧夜の香のたちのぼる水辺にて   青猫
    乗り捨てられた四輪駆動     媚庵
   畑まで残月を背に向かひたり    遊凪
    息吹きかけて磨く紅玉      裕美
ウ  よそいきで急ぐ芒の波の道     玉簾
    湘南までぢや話し足りない     凱
   生命の起源の棒の如きもの      り
    シーラカンスとなるまで眠る    猫
   聞きたての都市伝説を反芻し     庵
    今でも残る巴里の地下街      凪
   大長編映画の果てて月涼し      美
    人肌ほどの合歓の木の下      簾
   地元では代打の神様と呼ばれ     凱
    野次将軍も四年契約        り
   言の葉はやや脂じみ花の雨      猫
    酸素ボンベの重き遅き日      庵
ナオ 蝌蚪の紐バケツに入れて児ら帰る   凪
    あらゆるものに名前をつけて    美
   玉葱を刻む前から泣いてをり     簾
    ミラーボールに乗つて銀座へ    凱
   裏筋の画廊でお湯が沸いてゐる    り
    夕日にまぎれ一角獣が       猫
   男装の麗人の襟巻の紺        庵
    腕を組もうと誘ふウインク     凪
   疑問符を投げ掛け合つて長き夜    美
    夢の中でも揺るる撫子       簾
   霧の辺をローソク足がついてきて   凱
    ぽつかり上がる終値と月      り
ナウ 白地図を開けば青き風ばかり     猫
    バンガローから女声合唱      庵
   車椅子で小径をつたふ老夫婦     凪
    お守りのごと風船を持つ      美
   ひとひらの花が睫毛に降る日暮    簾
    ぶらんこ越しに遠浅の街      凱


起首:2019年 2月19日(火)
満尾:2019年 3月11日(月)
捌き:ゆかり

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