かなかなや他人の住んでゐる生家 陽子
釣瓶落しへ豆腐屋の笛 ゆかり
月光を物理学者のすり抜けて あんこ
狂ひ咲きをる病院の庭 媚庵
洟水に似たる氷柱をへし折らん 銀河
夜毎天狗は高尾の森で 月犬
ウ 語部の塩辛声のしみわたる 令
南の島の白き砂浜 子
たつぷりと塗つてと言ひて横たはり り
背骨をなぞるこそばゆき指 こ
三味線の皮は猫だと教へられ 庵
蝙蝠の影よぎる月面 河
書棚には伯爵領といふ句集 犬
前へ倣へで靴の形に 令
下萌を駆けてくる半ズボンたち 子
げにかぐはしき佐保姫のひだ り
風光るテラスヘスパゲティふたつ こ
文庫の中也詩集に落花 庵
ナオ 早紅葉の湯田温泉の駅舎裏 河
旅の役者と帰る燕と 犬
菊酒を唐草文の風呂敷に 令
押し入れの中息をひそめる 子
熱戦はタイブレークに突入す り
ボールボーイのいつも後ろ手 こ
賭け金をまた倍にする女連れ 庵
燃える朱色に香を焚きしめ 河
老画伯襖に描く龍虎の図 犬
竹林のなか小径小暗し 令
月光に関守石のひとつあり 子
抜き差しならぬままに長き夜 り
ナウ 露霜の鉄扉を押せば軋みたる こ
グランドピアノ弾く人の影 庵
抽斗にハズキルーペを置き忘れ 河
嗚呼恍惚の牡丹雪降る 犬
雨傘をレフ板として花万朶 令
整列の前よぎるてふてふ 子
起首:2019年 8月13日(火)
満尾:2019年 9月 5日(木)
捌き:ゆかり
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