2008年秋のやまぐち連句会主催の連句大会における小島のり子さん(fl)の音源を拝聴する。
句と曲は必ずしも一対一対応ではなく、オリジナルありスタンダードありフリーインプロヴィゼーションありという自由なスタンスとなっている。
狂句こがらしの身は竹斎に似たる哉 芭蕉
Easy Come Easy Go(オリジナル)
発句に付けたのはどこかモンキッシュな小島のり子さんのオリジナル・ブルース。いかにも狂句こがらしの身である。
たそやとばしるかさの山茶花 野水
山茶花(オリジナル)
脇に付けたのも小島のり子さんのオリジナルのワルツ。三拍子上に4つ音を詰め込んで童謡の「さざんかさざんか」の一節を重ねる難しい符割の、危うくもうつくしい曲である。
有明の主水に酒屋つくらせて 荷兮
七田(オリジナル)
第三も小島のり子さんのオリジナル。「七田」というのは私は飲んだことがないが佐賀の名酒らしい。どこかデューク・エリントンの「プレリュード・トゥ・ア・キス」に通じる吟醸香が感じられる。
かしらの露をふるふあかむま 重五
朝鮮のほそりすゝきのにほひなき 杜國
日のちりちりに野に米を苅 正平
I'm Confessin'
三句まとめてスタンドナンバー。澁谷盛良さんのベース・ソロをフィーチャーするあたり、いかにも「あかむま」の雰囲気がある。
わがいほは鷺にやどかすあたりにて 野水
髪はやすまをしのぶ身のほど 芭蕉
いつはりのつらしと乳をしぼりすて 重五
きえぬそとばにすごすごとなく 荷兮
Zingaro
四句まとめてスタンダード・ナンバー。初めて聴く曲であるが、哀愁をたたえたボサノバである。
影法のあかつきさむく火を燒て 芭蕉
あるじはひんにたえし虚家 杜國
田中なるこまんが柳落るころ 荷兮
Wee Small Hours
アルト・フルートをフィーチャーしたナンバーである。
霧にふね引人はちんばか 野水
たそがれを横にながむる月ほそし 杜國
となりさかしき町に下り居る 重五
Stella By Starlight
山口友生さんのギターをフィーチャーしたナンバーである。山口友生さんは全編を通じナイロン弦のクラシック・ギターを弾いているが、じつにパワフルな音が胸を打つ。
二の尼に近衛の花のさかりきく 野水
蝶はむぐらにとばかり鼻かむ 芭蕉
Those Spring Days(オリジナル)
いかにも桜花爛漫な雰囲気のアップテンポなボサノバ・ナンバーである。
のり物に簾透顔おぼろなる 重五
いまぞ恨の矢をはなつ声 荷兮
ぬす人の記念の松の吹おれて 芭蕉
しばし宗祇の名を付し水 杜國
Evindence
名残表は四句まとめてセロニアス・モンクの曲。名残表ともなれば演奏も乗り乗りで大技も繰り出される。
笠ぬぎて無理にもぬるゝ北時雨 荷兮
冬がれわけてひとり唐苣 野水
しらじらと砕けしは人の骨か何 杜國
烏賊はゑびすの國のうらかた 重五
Here's That Rainy Day
雨と言えば、バンド稼業の人は条件反射でこの曲になるのである。
あはれさの謎にもとけし郭公 野水
Hototogisu(小島のり子書き下ろし)
日本情緒ただようナンバーである。ソロはなし。
秋水一斗もりつくす夜ぞ 芭蕉
Autumn Water(小島のり子書き下ろし)
アップテンポのモーダルなナンバーである。このあたり、演奏時間を短く畳みかけて名残表の疾走感がある。
日東の李白が坊に月を見て 重五
山口友生書き下ろし
月の座は山口友生さんの書き下ろし。ソロなし。
巾に木槿をはさむ琵琶打 荷兮
山口友生ギターインプロヴィゼイション
「琵琶打」からインスパイアされたであろう即興演奏である。
うしの跡とぶらふ草の夕ぐれに 芭蕉
澁谷盛良ベースインプロヴィゼイション
アルコによるソロであるが、最後に牛の鳴き声そっくりに演奏し、聴衆にどよめきが起こる。
箕に鮗の魚をいたゞき 杜國
小島のり子フルートインプロヴィゼイション
鮗(コノシロ)は、コハダ。寿司ネタである。このあたり、牛→鮗という句の付け方と、ベースの即興→フルートの即興という演奏の付け方の対比が味わい深い。
わがいのりあけがたの星孕むべく 荷兮
けふはいもとのまゆかきにゆき 野水
You Are Too Beautiful
ピッコロをフィーチャーしたバラードであるが、ギターのオブリガードも実にうつくしい。
綾ひとへ居湯に志賀の花漉て 杜國
山口友生書き下ろし
花の座も山口友生さんの書き下ろし。ソロはなし。不思議な雰囲気の曲である。
廊下は藤のかげつたふ也 重五
Wistaria Flower(小島のり子書き下ろし)
挙句にふさわしく、いかにも名残り惜しい雰囲気のあるボサノバ・ナンバーである。
アンコール 獺祭
挙句の果てはアップテンポのオリジナルでこれも日本酒の名にちなんだ曲。パワー全開で豪快に秘技絶技を次から次へ繰り出す。やはりジャズ・ミュージシャンは落とし前をつけないと終わらないのである。
この演奏を生で聴けてしかも連句を巻けるなんて、この世のものとは思えない贅沢三昧である。桃源郷である。すごいぞ、やまぐち連句会。
(2008年秋のやまぐち連句会の催しについて、別のところに書いた記事を転載しました。)
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