最後に紹介するのは、この句。
さくら餅たちまち人に戻りけり 渋川京子
いろいろな読みはできると思うが、「たちまち人に戻」る前は、どこか途方もないところへつながっていたのであり、この世ならざるかなしみの声に耳を傾けていたのだと感じる。さくら餅というささやかな、ある世代以降にはおそらく理解不能な和菓子が、この世に戻ってくる契機であることがなんとも嬉しい。人生にはまだ、ささやかながら喜びがいくらでもある。そんな希望がこの句からは感じられるのである。
まだまだご紹介したい句は多々あるが、この辺で筆を置くこととする。取り上げなかった句については、ぜひ直接『レモンの種』(ふらんす堂)をお手にとって味わって頂きたい。
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