2017年1月6日金曜日

自分史の中の起伏

 広渡敬雄『間取図』(角川書店)の続きで、平成二十三年。

  婿となる青年と酌む年の酒
 句集を編年体でまとめると、世の中の動きとシンクロしたり自分史の中の起伏が入り込んだりする。その年は、広渡敬雄にとってはこのように始まった。さらに読み進めると、ごく簡素な前書きにより平成二十三年は東日本大震災があった年で、ご長女が結婚された年でもあったことが知れる。

  探梅やぽつんと西の空開いて
  料峭や山の容に笹吹かれ

 切れ字「や」を二句引いたのだが、俳諧的な観点からは二句とも句尾がオープンでどうにも立句らしくない。立句とは異なる現代俳句としての玄妙で豊穣な味わいとして捉えるべきなのだろう。たまたま「や」の句を挙げたが、広渡敬雄の句の世界は全体に、季語と季語以外が意味の切れを持つ重層的な作りを避け、平明で分かりやすい持ち味となっている。
 
  引くときの砂の素顔や土用波
 土用波は寄せるときは高く険しい。しかし引くときは、じつはいつもと同じではないか、という句意だろう。「砂の素顔」というあまり見かけない措辞が効いている。

  雪吊のなかにいつもの山があり
 松に昨日まではなかった雪吊が張られたのだろう。三角形をなす縄が目に新しいが、よく見ると中にいつもの山が見える、という三角形が入れ子になったような図形的把握が楽しい。

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