2017年1月4日水曜日

だって裏山ってこうじゃん

 しばらく広渡敬雄『間取図』(角川書店)について書く。読み終わらないうちに書き始めるのがここのブログの進め方なので、変なことになるかも知れないが、そのときどきで心に起こったことをカワウソが魚を並べるように広げたい。『間取図』は著者の第三句集にあたるが、先行する『遠賀川』『ライカ』については以前にこのブログでも触れており、その縁もあって今回ご恵送頂いた(ありがとうございます)。
 さて、『間取図』は平成二十一年から二十八年までの句を編年体で並べていて、途中平成二十四年には角川賞を受賞されている。そこがなにかの転機になっているのか、我が道を行くでなにも変わらないのか、その辺りが読み進める上での楽しみといえば楽しみだろう(予想ではなにも変わらないほうに50ユーロ)。まずは平成二十一年から。

  輪飾の艇庫より空始まりぬ
 日頃は無造作にしかし大切に舟が積まれ、なんの飾り気もない佇まいの艇庫であるが、正月だけは一年の安全を祈念して輪飾りがある。その薄暗がりの向こうに新年の空が明けて行く。巻頭にふさわしい淑気が感じられる句だと思う。

  裏山にこゑ吸はれゆく鬼やらひ
 どの句に代表させてもいいのだが、なにを句に詠むかを探す底に原風景への信頼というのがあると思う。子どもの頃、見たり聞いたり嗅いだりしたあの空気感。それを今現在目の前にある景色やものが、持っているということ。「だって裏山ってこうじゃん」としかいいようのない感じをそのまま句に定着させる確かさ。ノスタルジーとかレトロだとか名付けると、きっと壊れてしまう「感じ」なのだけど…。

  蛇ゆきし草ゆつくりと立ち上がり
 同じことは俳人としてのキャリアの中での原風景についても言えるのかも知れない。「だって俳句ってこうじゃん」としかいいようのない感じ。

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