ところが、時系列を喪失し定型が不統一で夢見がちに寝てばかりいるのかというと、ここぞというところでは、ちゃんと月の座と花の座に相当するものがあって、勝負に出ているのです。
はじめに月の座、句集どおりの順番で十二連発。
眠り猫からだまるごと無月かな こしのゆみこ
無意識が時計をはずす二日月
満月の肘の出ている二階かな
満月の真水は底を抜こうとする
跳躍の人ふりむけば満月ぞ
十六夜の積み木は聳え崩れない
激怒して月の照る音の中にいる
刺繍糸のあおのいろいろ二十三夜月
手枕の父を月光ふりしきる
月の木に上りし猫の飛びたてり
月入れてわが部屋大きくなりにけり
水の月さっきこわした花のかけら
次に花の座、句集どおりの順番で十三連発。
花の旅汽車はふるさと通り越す
兎島桜の色となりにけり
姉妹桜の中をながれゆく
口車花時にのる楽しさよ
千年の桜の中に手を入れる
学校をはみ出す桜海に舞う
桜ごと帽子ごと姉はいなくなる
鍵穴の錆のかまわず桜咲く
少年がシュートするたび桜咲く
びしょぬれの桜でありし日も逢いぬ
いたくないかたちに眠る花月夜
泣きやみし帰りは桜咲いている
半島や力をぬいて遅桜
いずれもこしのゆみこならではの月の座、こしのゆみこならではの花の座をかたちづくっていて圧巻です。
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