2009年9月8日火曜日

かんたん連句式目

 連句は室町時代から続くゲームで、五七五、七七、五七五、七七、…を繰り返しながら、複数人で前の人の句に次の句を付け、その付け具合に興じるものです。どこまで続けるかによって三十六歌仙とか百韻とかの種類があります。連句の一句目のことを発句(ほっく)と呼び、それがいつしか単独で取り沙汰されるようになったのが、今日の俳句です。正岡子規以降、最近まで連句に日があたることはほとんどなかったのですが、昨今は俳句のマンネリ化やインターネットの普及などの要因もあってか、連句を自分たちでもやってみたいという方が静かに増えているようです。作者が複数人であること、全体として何か意味があるものではないことから、文学と見なさない向きもありますが、それはそれ。「それがどうした」という方のみ、続きをご覧下さい。
  
 どんなゲームにもルールがあり、連句の場合は式目(しきもく)と呼びますが、なにしろ室町時代から続くゲームなので、前例主義に基づく非常に細かい決めごとがあり、最初にそれを見てしまうと、一気にやる気が失われてしまいます。ここにご紹介するのは、連句を自分たちでも巻いてみたいという人のための、かんたんな式目です。これ以上簡単にすると連句に見えない程度にかんたんで、このくらい制約があった方が楽しめる程度には起伏があるはずです。

1.構成(三十六歌仙)
 古来、連句は懐紙に書くもので、三十六歌仙では二枚の懐紙を用いました。一枚目を初折(しょおり)、二枚目を名残折(なごりのおり)といい、それぞれ懐紙を真ん中から二つ折りにして表と裏に書きました。現代では懐紙に書くことなどまずありませんが、ネットで巻くにせよ、A4用紙などに書くにせよ、三十六歌仙を巻くときには当時の用語を踏襲しています。

初折表 発句 客人が当季で詠む(五七五)
     脇 主人が当季で返す(七七)
    第三 「て」止めで展開 (五七五)
     4 (七七。以下同様に五七五と七七の繰り返し)
    5  秋・月の定座
     6

初折裏 7
     8
    9
     10
    11
     12
    13  このへんで夏または冬の月の定座(流動的)
     14
    15
     16
    17  春・花の定座
     18

名残表 19
     20
    21
     22
    23
     24
    25
     26
    27
     28
    29  秋・月の定座
     30

名残裏 31
     32
    33
     34
    35  春・花の定座
     挙句 (かならず春で、めでたく終わる)

 骨格はこれだけです。内容的には初折の表と名残裏は、まじめにやります。途中の初折裏と名残表は「あばれどころ」といって諧謔、機知の限りをつくします。

   初折表(6句)…しらふ
   初折裏(12句)…よっぱらい
   名残表(12句)…ますますよっぱらい
   名残裏(6句)…しめ

 こんな感じで、交響曲が楽章ごとに雰囲気が違うように、めりはりを付けます。


 また伝統美として、花のある春と月のある秋を大切にしていて、

・春、秋となったら3句続ける。
・夏、冬は1句で捨ててもよい。
・季節は春→夏→秋→冬の順で推移する必要はないが、同じ季の中では時の移ろいに気をつける。
・季節が変わるときは雑(ぞう。=無季)を間にはさんでよい。

というのがあります。

 それから全体の中で2箇所ほど恋の句を続けます。これは定座がある訳ではありません。流れの中で恋をしたくなったら、そうすればいいのです。

2.付句

 構成よりもこっちの方が難しいです。局所的には2句前までを注意して下さい。

  打越(うちこし)
  前句
  付句

 前句に付ける訳ですが、前句と無関係であってはいけません。普通の俳句で二物衝撃をやる要領で、前句との間に「切れ」を作る訳です。だから逆に一句の中に切れ字の「や」「かな」「けり」などを使用してはいけません。切れ字を使っていいのは発句だけです。
 このとき、せっかく打越→前句で展開させたのに、前句→付句でもう一度展開させようとしたら、打越と付句が同じような世界になってしまうことが往々にして発生します。これでは堂々めぐりになってしまうので、「打越にかかる」という言い方で、禁止とします。

 連句というのは、このようにして付句ごとに新しいイメージを展開させてゆくものであって、全体でストーリーがあるものではありません。「2句前までを注意して下さい」というのは、そういう意味です。

 なお、前句が「山」という場所情報を提示しているのに「海」で付けたり、前句が「夜」という時間情報を提示しているのに「昼」で付けたりすると、ちぐはぐなことになります。提示された情報とは違うものを付けると付けやすいです。自分のことを提示されたら、他人のことで付ける、他人のことを提示されたら場所で付ける、場所のことを提示されたら人のことで付ける、みたいに5W1Hのどれに焦点を置いて詠むかをつねに前句からずらすと、付けやすいのです。

3.捌き
 複数人が参加するので、全員が同格だと収拾がつかなくなります。そこで捌き人をひとり定め、付句を採用するかは捌き人に一任します。その際、やり方がふたつあります。

①複数人がそれぞれ付句を作り、捌き人がその中から選ぶ。
②順番に従って一人が付句を作り、捌き人が納得するまで駄目出しする。

 どちらで行くかは、その座で決めて下さい。ネットで巻くときは、全員が同時に同じ集中力で臨むことはあり得ないので、②(「膝送り」といいます)がお薦めです。また、いずれの場合も捌き人に絶対権力を与えないと、気まずいことになります(参加する人は誰もが自分がいちばんうまいと思っている訳ですから、怒り出す人や泣き出す人があらわれても不思議はありません)。

4.用語
 知らない言葉ばかり出てきて驚かれたかも知れませんが、もしあなたが捌き人の立場でないのなら、今日のところは「打越(うちこし)にかかるのは駄目」というのだけ覚えてくれればOKです。あとは、捌き人がその都度いろいろ教えてくれることでしょう。


 それでは、仲良くお楽しみ下さい。

2 件のコメント:

  1. ざんくろー2009年9月23日 14:43

    今更ながらですが。。。

    >切れて複雑な構造になっている

    俳句の骨頂ですね~。
    切れるから、複雑になる、、、凄い><
    こんなこと考えて作っていませんでした。
    連句だけではなく、俳句まで勉強できます。
    色々とありがとうございます^^

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  2. 俳句というのは、考えようによっては、連句で前句~付句間でやっていることをたった一句の中でやっている、すごいやつなのです。

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