実在するこしのゆみこさんの家族構成は存じ上げませんが、作品中の登場人物は多彩です。
一階に母二階時々緑雨かな こしのゆみこ
父上京幸福の空豆さげて
待つ母がいちにち在ります花空木
ゆるされておとうと帰る麦の秋
草笛吹く兄を信じて大丈夫
昼寝する父に睫毛のありにけり
ころりころりこどもでてくる夏布団
少し遅れ家族の昼寝にくわわりぬ
片影ゆく兄の不思議なつめたさよ
夏座敷父はともだちがいない
親戚にぼくの如雨露のありにけり
昼寝する君の背中に昼寝する
冷麦の姉妹二人暮らしかな
蜻蛉にまざっていたる父の顔
子規の忌の夜具のおもたき母の家
手枕の父を月光ふりしきる
露つけて帰りし姉の深く眠る
スカートの真ん中に姉後の月
片恋の兄猛烈に黄落す
姉家族白鳥家族たべてばかり
母はひろってきれいに毬をあらう
人買いのごとく磐越西線父黙る
時々は野を焼く父についてゆく
水使う母のゆらゆら雪柳
桜ごと帽子ごと姉はいなくなる
ああ父が恋猫ほうる夕べかな
母太る音のしずかに春日傘
一人称が「ぼく」の句が混在することからも察せられるように、こしのゆみこの作中世界では必ずしも実在ではない家族がファンタジーの世界と自在に行き来しているようです。句集全体の第一句目「一階に母二階時々緑雨かな」からして、実在する一階をよそに二階はいきなりファンタジーの世界に開かれているのです。「家族ならビーチパラソル支えなさい」の豪快さと、ファンタジーの住民として極度に美化された家族の交錯する、よじれた世界。『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』の世界と通じる、どこにでもありどこにもない、郷愁の中の越野商店が夕日に照らされているようです。
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